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スマート珈琲

場所
> 京都市
スマート珈琲

店名は「気の利いたサービス」の意味を込め初代がつけた

寺町通の極上フレンチトースト

京都市役所の脇を南北にのびる寺町通は、梶井基次郎の短編「檸檬(れもん)」の舞台でもある。

主人公「私」は町をさまよい、通りの果物屋で買ったレモンを丸善の画集売り場にそっと置いて帰る、ただそれだけのあらすじだが、感性豊かな作家の若さと貧しさ、病弱な身の上が滲(にじ)んで、忘れがたい小編になっている。

スマート珈琲(コーヒー)店は本能寺や鳩居堂(きゅうきょどう)が並ぶアーケード街の中ほどにある。落ち着いた外観も使い込まれたソファやテーブルも、なじみ客の多い「町の喫茶店」といった趣だ。昭和初期の1932年の創業は、喫茶店では京都でも指折りに古い。結核の梶井が31歳で亡くなったのは、偶然この年。それからもう80年以上が過ぎている。

スマート珈琲焙煎機
コーヒー豆はドイツ製プロバット機で毎朝、自家焙煎している
スマート珈琲フレンチトースト
フレンチトーストとドリンクのセット

「祖父が洋食店として始めました。目抜き通りやった寺町通で店を出せれば一人前といわれた時代です」と店主の元木章さん。方針を聞くと、「頑なにならず、お客様の言葉に耳を傾けながら、受け継いできたものを大事にしていきたい」。今もランチタイムは2階で洋食を出す。

看板メニューのフレンチトーストは客の要望から生まれた。厚切りパンを牛乳に浸し、卵をからめて焼くだけだが、ふんわりのパンに、たっぷりのシロップと砂糖が絶妙な甘さでまとわり至福の味に。彼(か)の作家が口にしていたら何と言っただろう、ふとそんな空想に浸った。

文・写真/福崎圭介


スマート珈琲

住所:京都市中京区寺町通三条上る天性寺前町537

交通:地下鉄東西線 京都市役所前駅から徒歩2分

TEL075-231-6547

(出典 「旅行読売」2014年10月号)

(ウェブ掲載 2020年5月20日)

Writer

福崎圭介 さん

新潟県生まれ。広告制作や書籍編集などを経て月刊「旅行読売」編集部へ。編集部では、連載「旅する喫茶店」「駅舎のある風景」などを担当。旅先で個性的な喫茶店をチェックする習性があり、泊まりは湯治場風情の源泉かけ流しの温泉宿か、駅前のビジネスホテルが好み。最近はリノベーションや地域再生に興味がある。趣味は映画・海外ドラマ鑑賞。