【旅する喫茶店】フランソア喫茶室(京都)
1941年改装時の状態がほぼ残る店内。ドーム天井や中央に膨らみがある柱などが特徴的
喫茶店で初めて文化財になった名店
四条の高瀬川沿いに淡いグレーの洋風の建物がひっそりと立っている。昭和初期の1934年開業の喫茶店は京都でも古く、木造洋船をイメージした建物も、イタリアンバロック調の装飾が施された店内も―赤いビロード地のイス、ステンドグラス窓、シャガールのリトグラフ―ほぼ当時のままで、知られざる記憶が隠れている。
戦前、創業者の立野正一は美術学校をやめて労働運動に身を投じ、活動家への援助資金を稼ぐためにこの店を開業した。占領下のフランス人民戦線が刊行した「金曜日」をまねて反戦雑誌「土曜日」を作り、学生や芸術家が集った。今に残る建物は京大のイタリア人留学生に設計を頼んだという。店名は「落穂拾い」の仏人画家フランソワ・ミレーにちなむ。知的な雰囲気は戦後も引き継がれ、店に通った著名な作家や知識人は数知れない。
「大学卒業後、東京から戻ってきた69年は学生運動が盛んで、にぎやかでした。今は随分静かになりましたね」と初代の二女にあたる2代目の今井香子さんは話す。
2003年、喫茶店としては初めて国の登録有形文化財になり、レトロな雰囲気にひかれてくる若い客も多い。多くの人たちに愛されてきたことが感じられるこの店で、ひと時、歴史に思いをはせたい。
文・写真/福崎圭介
フランソア喫茶室
住所:京都市下京区西木屋町通四条下ル船頭町184
交通:阪急京都線京都河原町駅から徒歩すぐ、または京阪本線祇園四条駅から徒歩3分
TEL:075-351-4042
(出典 「旅行読売」2020年10月号)
(ウェブ掲載 2021年2月17日)
旅行読売出版社「旅する喫茶店」2021年9月1日(水)発売 定価1430円(税込)