“雪の滝”が迎える乳頭温泉郷で秘湯巡り(1)
どこまでも真っ白なブナ林が広がる蟹場温泉の混浴露天風呂
(写真提供/秋田県観光連盟)
秘湯ムード漂う7軒の湯宿
冬の温泉では、お銚子を載せた盆を浮かべて盃を傾けながら、露天風呂で雪景色を観賞するのが好きだった。入浴中の飲酒はご法度だが、これを自慢にする宿がかつては多かった。あえて〝観賞〟と言ったが、一幅の絵のような景色だからこそ。秋の錦絵もいいが、白と黒の世界は不思議と心を穏やかにしてくれる。
そんな冬の贈り物を受け取りに、田沢湖の北方、乳頭山の懐に湯煙を上げる乳頭温泉郷へ向かった。鶴の湯、黒湯(冬季休)、蟹場、孫六、妙乃湯、大釜、休暇村の7湯からなり、どこも秘湯ムードが人気である。
どこもシーズン週末の泊まりは満室のことが多いが、立ち寄り入浴なら気軽に宿の風呂で雪見を楽しめる。宿泊者限定で、温泉郷を循環するバス「湯めぐり号」の利用に、各宿での入浴も付いた「湯めぐり帖」を売っている。
雪の降る音に耳を傾けて
立ち寄った休暇村乳頭温泉郷は温泉郷で唯一のホテルで、和室25、洋室13。ナトリウム―炭酸水素塩泉と単純硫黄泉の源泉を引き、男女別の内湯、露天風呂に注ぐ。露天風呂からブナ林を見渡し、雪化粧した様子をライトアップする夜も素敵。リニューアルであずま屋を取り外し、見上げる一面にもブナ林を見渡せる。湯船近くまで雪が積もり、雪だるまを作りながらの入浴も楽しめる。
休暇村乳頭温泉郷の支配人で乳頭温泉組合長でもある竹内貴祐さんに冬の魅力を聞くと、「一帯に広がるブナ林は静まり返り、雪の降る音が聞こえてきそう。風のない日は、空から綿のような雪が垂直に落ち、〝雪の滝〟を見るようですよ。除雪などで働く側は大変ですが、ごほうびをもらった気分で癒やされます」と語ってくれた。(2)へ続く
(出典 「旅行読売」2019年2月号)
(ウェブ掲載 2019年10月23日)