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河津桜と海の絶景を楽しみ 17畳もある客室でひとり泊

場所
  • 国内
  • > 北陸・中部・信越
  • > 静岡県
> 河津町
河津桜と海の絶景を楽しみ	17畳もある客室でひとり泊

今井荘の客室から海を眺めて静かなひと時を


全室オーシャンビューの贅沢

客室へ入ると、海が迎えてくれた。正面の大きな窓いっぱいに、青々とした海原がキラキラと輝いている。ベランダへ出ると海風に舞う潮の香りが全身を包む。白浜に寄せては返す波の音は、単調な繰り返しがかえって心地良い。

「う~ん、いいね」。普段は独り言を口にしないが、この時ばかりは言葉にしてみたくなった。ひとり旅なので、話し相手はいない。自分自身へ、この宿を選んだことをほめてあげたい。

ここは東伊豆。河津桜で有名な河津町にある温泉旅館「今井荘」。全45室がオーシャンビューで、通常の客室でも12・5畳に4・5畳の次の間付き。通常料金でここまで広い客室をひとりで使える宿は、あまり聞いたことがない。


玄関でスタッフや仲居さんが笑顔でお出迎え
玄関でスタッフや仲居さんが笑顔でお出迎え

ひとり気ままに伊豆七島を眺めて

いつもなら宿に着いて早々、真っ先に温泉へ向かうところだが、今回はしばし客室でくつろぎたい気分。テーブルを壁際へ押しやり、腕枕で横たわる。何を思うでもなくのんびりと景色を眺めていると、クリスチャン・ラッセンのマリンアートと重なって見えてきた。

「空気の澄んだ晴天時でしたら、伊豆七島を望めます。特に大島は大きく、意外に近いことを感じてもらえます」と、支配人の上遠野千人さんが教えてくれた。

テーブルを元に戻し、といっても海を眺めるために窓側を向いて着座。ひとり泊では普通、床の間に近いところが上座となるが、あえて海と向き合って座りたい。

チェックインから2時間ほどがたち、次第に日が傾き始めた。室内にも影が落ち始めてきたが、あえて電気をつけないほうが海景の彩りが引き立つ。浅い水底のような青みを残す海と、茜色の空とのグラデーション。海を眺めているだけの、無駄にも思える時間を過ごせるのも、ひとり泊の気ままさ。


ラウンジで木々越しに眺める景色も風情がある
ラウンジで木々越しに眺める景色も風情がある

昭和天皇も羽生名人も宿泊

日が沈む前に、風趣に富む景色を温泉につかりながら眺めようと、露天風呂へ向かった。

男女とも岩を配した湯船で、女性用のほうが広くて眺めがいい。宵闇が迫るにつれ湯煙はその存在を強め、刻々と妙味の深まるその様子に「ふぅ~、いいね」とまた独り言。湯は保湿効果の高いナトリウム―塩化物泉で、適応症は神経痛やリウマチなど。豊富な自家源泉は、周辺の保養所や民家へも配湯している。


大海原を見渡す女性用露天風呂
大海原を見渡す女性用露天風呂

伊豆近海の魚介類を堪能

夕食は食事処でとる。ひとり泊でも相席はなく、2人か4人掛けテーブルで食事をする。料理は、稲取や下田など伊豆の港に揚がる近海の魚介類が中心で、刺し身の盛り合わせや、踊り焼きまたは酒蒸しのアワビも付く。ご飯が釜飯なのも特徴で、4月はシラスや桜えびなど具は月替わり。

食後、ラウンジのソファに腰掛けて、見るともなしに辺りを見回していると気になるものがあった。昭和23年と29年に、静養で今井荘を訪れた昭和天皇の写真だ。昭和9年に創業した今井荘の歴史を物語るひとコマである。

王将戦や名人戦など将棋や碁の対戦もたびたび行われ、名宿としての評判を高めてきた。中でも後世に語り継がれるのが、平成8年、王将・谷川浩司と名人・羽生善治の一戦。羽生名人が史上初の七冠を達成した。その時に使われた将棋盤や駒がラウンジの一角に展示されている。

旅館のラウンジに居心地の良さを感じたことはこれまで少ないが、ここは違う。何をするわけでもないが、ほっとする。羽生名人も、対戦後はそんな気持ちでくつろげただろうか。


谷川王将と羽生名人の一戦で使われた将棋盤と駒
谷川王将と羽生名人の一戦で使われた将棋盤と駒

温泉でサンライズロードを眺める

翌朝は、日の出に染まる海原を温泉につかりながら見たくて早起きした。同じ思いの客は多いようで、朝6時とは思えないほどの混み具合。客室に戻って、布団に横たわりながら眺めることにした。

「4、5月は海に向かって左奥、岬の裏手から日が昇ってきます。〝サンライズロード〟とでも言いましょうか、秋、冬でしたら海面に光の道をご覧いただけるんですよ」と上遠野支配人。

少し前から伊豆では〝ムーンロード〟が話題だが、〝サンライズロード〟もインスタ映えして人気を集めそうである。

文/松田秀雄 写真/齋藤雄輝


館内に貸切風呂も二つある
館内に貸切風呂も二つある
女性客には色浴衣を用意している
女性客には色浴衣を用意している
例年2月上旬から咲き始める河津町の河津桜
例年2月上旬から咲き始める河津町の河津桜

<施設データ>

今井荘

TEL0558-34-1155

http://www.imaiso.jp/

(出典 「旅行読売」2019年5月号)

(ウェブ掲載 20191120日)


Writer

松田秀雄 さん

全国を取材で巡ること約30年。得意なテーマは「温泉」で、北海道・稚内温泉から沖縄・西表島温泉まで500湯・2000軒以上は訪れている。特に泉質は硫黄泉が好きで、湯上りに体を拭かず自然乾燥させるのがモットー。帰宅後、体に付着した硫黄成分が湯船に染み出して白濁する様子を見るのが好き。最近は飲泉への興味が強く、「焼酎割に適した温泉は?」を掲げて最高の一杯を探し中。旅行読売出版社・編集部に所属。