九州で人気の“走るレストラン”①
コース料理は一品出しで、キッチンから熱々の状態でサービススタッフが運んでくれる
西鉄の観光列車「CHIKUGO」
食堂車で食事をした時の喜びは、今も忘れられない。何歳頃で何を食べたか、まったく覚えていない。ただ、「めちゃくちゃ楽しかった」ことは記憶している。走る列車の中で食事をすること自体が子どもにとっては非日常であり、旅の目的を達成した満足感があった。
近年、食事を提供する観光列車が増えている。子どもの頃を思えば全車両が食堂車のようで、大人になってもうれしいもの。単なる移動手段ではなく、観光列車を楽しむことが旅の目的になっている。
2019年3月23日から運行している西鉄の観光列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」(以下、CHIKUGO)も、福岡・筑後地域の魅力が詰まったレストラン列車だ。西鉄福岡(天神)駅から大牟田駅へ、往路はランチ、復路はディナーコースとして1日1往復している。
出発前に“レストラン”は開店
11時33分、西鉄福岡(天神)駅3番線に、「CHIKUGO」が入線してきた。 車両は通勤電車として使っていた6050形を改造したもので、白地に赤のチェック模様の3両編成。乗車口に食事メニューを書いた看板が置かれ、車内には2・4・6人用のテーブル席を配している。街中のレストランへ来たような気分だ。
この日はランチコースに乗車し、着席とともにウエルカムドリンクのサービス。あまおうプレミアムスパークリングワインまたは季節のフルーツジュースで、出発前に“レストラン”は開店した。
テーブルにはアミューズが置かれ、経木に包まれた封を切る。アミューズとは「料理前のおもてなし」の意。居酒屋風に言えば“先付け”といったところ。焼いたバゲットに福岡県産のあまおう、プチトマト、久留米市北野町産のラディッシュが添えてあった。食前酒の赤に食材の赤。統一された華やかさに、「客を楽しませたい」というもてなす側の思いが感じられる。
「一口サイズが上品でいいんだけど、もう何枚か食べたいね」「普段着ではなく、もう少しおしゃれして来ればよかった」。そんな乗客の声が聞こえてきた。
身近な非日常の始まり
と突然、ホームから「チリリ~ン」という金属音。サービススタッフがトライアングルをたたいて、列車出発を知らせた。「CHIKUGO」のスタッフは、サービススタッフと呼ばれる。シャツやベストには伝統的工芸品の久留米絣をあしらい、カジュアルな雰囲気。革靴ではなくシューズであるところも、接しやすく客として気楽でいい。
「そもそものコンセプトが、“どこか落ち着く家のような空間”です。身近な非日常の時間を、気軽に楽しんでほしいです」と、広報の永友優理さんは話す。
2品目に運ばれてきたのは、野菜のプレート。半身を姿焼きしたニンジンに、ごろごろ盛られたキノコ、それに蒸したアスパラガスなど。どれも地元の特産で、キノコはユキレイタケとエリンギを掛け合わせた大木町産の王リンギ。「ユキレイタケ」は中国の新疆ウイグル自治区にルーツがある希少なキノコだ。
同行カメラマンは、「幼い頃はニンジンが苦手で、こんな甘いニンジンに出会っていれば喜んで食べたのに」とつぶやいていた。
文/松田秀雄 写真/森田公司
<問い合わせ>
西鉄お客さまセンター
TEL0570-00-1010
http://www.nishitetsu.jp/train/
(出典:旅行読売臨時増刊 鉄道の旅2020)
(ウェブ掲載 2020年5月18日)