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九州で人気の“走るレストラン”②

場所
九州で人気の“走るレストラン”②

車窓風景を楽しみながらティータイム

沿線の職人の技が光る食器

市街を抜けると田畑が見え始め、稜線も望める。列車の走行は直線部分が多く、のんびりとした風景がゆったりと流れて行く。めまぐるしく変わることのない景色がかえって、のんびりした気分で食事できるのがいい。

CHIKUGO」では、すべて車内で調理しているのも魅力だ。2号車の大半がオープンキッチンで、乗客は気軽に調理風景を見られる。

のぞいて見ると、次の一品、博多和牛を焼いていた。ジュウジュウと焼ける音を聞いていると、走行中の車内にいることを忘れる。焼き上がった先から皿に載せ、柳川市産のお刺身海苔やセリを添え、熱々のうちに客へ運ぶ。

博多和牛のローストはミディアムレアの焼き加減
博多和牛のローストはミディアムレアの焼き加減

小麦の甘みを感じるピザ

「今から、キッチンでメイン料理のピザを焼きます。ぜひご覧ください」と車内アナウンスが流れた。キッチンの前に集まって来た乗客に、サービススタッフの一人、安徳喜久雄さんが、「ピザは2人で1枚ですが、おひとり様用に半円のピザを載せるプレートもあります」と説明を始めた。

プレートは大川市にある家具メーカー・広松木工の職人によるもので、使うほど色に深みが出る木材を使用。滑り落ちないよう縁を高くしてあるのは、熱湯で柔らかくした細い板を、曲げわっぱの要領で取り付けたもの。筑後川河口に開けた大川市は「大川家具」で知られる家具の街。伝統を受け継ぐ職人の手作業から生まれた名品である。

福岡県は小麦生産量が全国2位で、ピザには肥沃な筑後平野で育った品種「ミナミノカオリ」を石臼挽きで使っている。団子状の生地に打ち粉をして広げるところから車内で作業するため、最後の客のピザが焼き上がるまで約25分かかる。

香り良く、モチモチしたなめらかな焼き上がり。小麦の甘みを、この時ほど感じたのは初めてかもしれない。沿線に広がる小麦畑を眺めていると、一層おいしく感じられた。

電気窯で焼かれたピザは湯気が上がるほど熱々のまま乗客へ
電気窯で焼かれたピザは湯気が上がるほど熱々のまま乗客へ
軟らかく焼き上げた博多牛のロースト
軟らかく焼き上げた博多牛のロースト

運転士や車掌と記念撮影

通常、西鉄福岡(天神)駅から大牟田駅まで特急で約1時間。同じ区間を「CHIKUGO」は約2時間30分かけて走る。そのため、花畑駅で19分、江の浦駅で7分停車し、後続列車に先を譲る。その間、乗客はホームで運転士や車掌と記念撮影を楽しんでいる。サインを求める乗客もいて、運転士・服部英治さんは「初めてのことですが、お客様に喜んでもらえれば」と、うれし恥ずかしげに笑みを見せていた。

笑顔が素敵な運転士・服部英治さん(花畑駅にて)
笑顔が素敵な運転士・服部英治さん(花畑駅にて)

車掌のサプライズ演出

再び出発した車内では、車掌の待鳥真那さんが乗客に記念乗車券を配り始めた。日付部分に切り込みを入れてくれるのだが、それが何と改札ばさみ。「ご自身で入れてみますか?」と言われ、まだ硬券の時代、駅員がカチカチとリズムよく音を鳴らしていたのを思い出した。

終点の大牟田駅に着いたら普通列車で折り返し、“令和”ゆかりの地・太宰府へ向かおうと思い巡らせていると、突然、「月が出た出た~月が出た~三池炭坑の上に出た~」と待鳥さんが車内アナウンスで歌い始めた。福岡県に伝わる民謡「炭坑節」である。

大牟田は世界遺産・三池炭鉱などがある炭鉱の街。バスガイドが歌ってくれることは多いが、車掌の歌を聞いたのは初めて。乗客の盛り上がりは最高潮のまま、列車は終着駅ホームへ滑り込んだ。

文/松田秀雄 写真/森田公司

待鳥さんのもてなしで、改札ばさみ体験も素敵な思い出に
待鳥さんのもてなしで、改札ばさみ体験も素敵な思い出に

<問い合わせ>

西鉄お客さまセンター

TEL0570-00-1010

http://www.nishitetsu.jp/train/

 (出典 「旅行読売」2020年臨時増刊)

(ウェブ掲載 2020年5月18日)

Writer

松田秀雄 さん

全国を取材で巡ること約30年。得意なテーマは「温泉」で、北海道・稚内温泉から沖縄・西表島温泉まで500湯・2000軒以上は訪れている。特に泉質は硫黄泉が好きで、湯上りに体を拭かず自然乾燥させるのがモットー。帰宅後、体に付着した硫黄成分が湯船に染み出して白濁する様子を見るのが好き。最近は飲泉への興味が強く、「焼酎割に適した温泉は?」を掲げて最高の一杯を探し中。旅行読売出版社・編集部に所属。