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能登の里山里海、癒やし旅(2)

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> 輪島市
能登の里山里海、癒やし旅(2)

静かな入り江にある大沢集落

朝市は暮らしの一部

のどかで心癒やされる里山里海の原風景が広がる能登。そこに暮らす人々は自然と共存しながら豊かな心を育み、伝統的な文化を今日に継承している。

のんびりとした時間が流れていながら、いつしか「能登のとと楽、加賀のかか楽」という言葉が生まれた通り、能登の女性は働き者であり、元気で明るい。

今も輪島朝市を訪ねると、そんな女性たちに出会える。店番は大半が女性だ。1000年以上の歴史があり、約360㍍の通りに200軒近くが並ぶ。現在は新型コロナウイルスの影響で店数は少なめだが、92歳の米谷はる子さんは現役で頑張っている。

「これから秋はガンドがおいしいよ。ブリに成長する少し前の魚で、脂がのって刺し身でも塩焼きでもいいね」と米谷さん。カナガシラやクチボソガレイも秋はおすすめという。

隣では娘の礼子さんが、客の注文でメバルをさばいていた。翌日に買いたい魚の注文だけして帰る客もいた。地元客にとって朝市は生活の一部であり、行きつけの店があるようだ。

地元客の注文で魚をさばく米谷礼子さん(左)と米谷はる子さん(右)
地元客の注文で魚をさばく米谷礼子さん(左)と米谷はる子さん(右)

生活の知恵から生まれた美観

魚といえば、連続テレビ小説「まれ」のロケ地として有名になった漁村が近くにある。入り江に広がる大沢・上大沢集落で、その景観から“間垣の里”と呼ばれている。

間垣とは、4㍍ほどの細いニガタケを組んだ垣根のこと。強い季節風から家屋を守るためのもので、大沢で約810㍍、上大沢で約517㍍にわたって間垣が続いている。

「刈ってすぐのニガタケは穂先が青々していて、そこに巣を作るスズメを捕まえたもんですよ」と話す田中屋旅館の主人・田中輝夫さん。修復は2人1組で行うため、子どもの頃はよく手伝ったという。

当時は堤防が低く、シケの時は高潮が間垣を越えることもあったそう。塩害の苦労を聞くと、「高潮と一緒に家の屋根に魚が上がってね。晴れると干物になっていて、いい塩梅だったよ」と笑顔で語ってくれた。

間垣の里は能登の里山里海の生活を知るうえで欠くことができないことから、文化庁の重要文化的景観に選定されている。

間垣が連なる大沢集落(写真は田中屋旅館)
間垣が連なる大沢集落(写真は田中屋旅館)

黒瓦の美しい家並み

能登の暮らしは、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている黒島地区でも感じられる。

高台から集落を見渡すと、海岸に沿って黒瓦の家屋が軒を連ねる。北前船の船主、船員家族らが暮らし、海運業で財を成した集落だ。幕府直轄の天領だった江戸時代から明治中期まで全盛は500戸を超えたといい、2007年の能登半島地震で3分の1は全半壊したものの町割りは当時のまま。古い建物は黒瓦、格子、鎧張りの共通した建築を見せ、集落全体に統一感がある。

細い路地が巡る黒島の家並み
細い路地が巡る黒島の家並み

北前船で栄えた回船問屋

最後まで回船問屋をしていた旧角海家住宅は、内部を公開している。店の間、中庭、家財蔵、望楼の間など、迷路のように広い。太い松の梁を見ても、当時の財力を感じる。

「角海家は船7隻を持っていて、従業員も100人を超えていました。屋内に小豆蔵があるのも特徴で、“赤いダイヤ”として大切に扱われていたんです」と、黒島地区まちなみ保存会のガイドの一人、浜崎一郎さんが教えてくれた。

話を聞いて再び、集落を見渡す高台へ。日に照り輝く黒瓦の屋根に天領としての風格を感じ、全長30㍍近い和船が人々の待つ港へ入って来る様子を思い描いてみた。

かつての様子を伝える旧角海家住宅の店の間
かつての様子を伝える旧角海家住宅の店の間

<問い合わせ>

輪島朝市

TEL:0768-22-7653(輪島市朝市組合)

旧角海家住宅

TEL:0768-43-1135

(出典「旅行読売」2020年11月号)

(ウェブ掲載2020年10月6日)

 

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Writer

松田秀雄 さん

全国を取材で巡ること約30年。得意なテーマは「温泉」で、北海道・稚内温泉から沖縄・西表島温泉まで500湯・2000軒以上は訪れている。特に泉質は硫黄泉が好きで、湯上りに体を拭かず自然乾燥させるのがモットー。帰宅後、体に付着した硫黄成分が湯船に染み出して白濁する様子を見るのが好き。最近は飲泉への興味が強く、「焼酎割に適した温泉は?」を掲げて最高の一杯を探し中。旅行読売出版社・編集部に所属。

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