【禅寺で宿坊体験】秩父 大陽寺
座禅、写経、精進料理で心身をリセット
時々、都会の喧騒(けんそう)や仕事の重圧から逃れ、ひとり旅に出たくなる。冬なら禅寺の凛(りん)とした冷気に身を置き、座禅に没頭するのもいいと思っていたところ、埼玉県奥秩父の大陽寺で1泊2日の宿坊体験があると聞き、さっそく参加した。
大陽寺は、鎌倉時代末期創建の臨済宗建長寺派の禅寺。秩父鉄道三峰口駅から送迎があり、秘境とも言える場所ながら都市から2時間30分ほどとアクセスが良いため、宿坊体験希望者の人気を集めている。
「ここにはテレビもなく、携帯電話の電波も圏外。住むには不便ですが、宿坊としては理想的な環境です。宿坊を始めた2007年に10人だった年間宿泊者は、今や1200人を超えます」。大陽寺第26代住職で、宿坊を一人で切り盛りする浅見宗達さんはそう話す。
今回の参加者は12人。顔ぶれは、会社の同僚グループ、大学生の友人同士、30代のひとり旅の女性など。みな宿坊体験は初めてだ。「ほかにも、年配の夫婦や外国人観光客などさまざまです。最近は仕事の悩みを抱えて訪れるサラリーマンも増えています」と浅見さん。
スケジュールは厳密には決まっていない。基本は、初日が夕方から写経と読経、2日目は早朝から読経と座禅だが、いずれも自由参加だ。「寺の周辺を散策するもよし、縁側に座って景色を眺めるもよし。自由にお過ごしください。禅の教えでは、渓谷の流れの音はお経で、山の姿は仏の姿にほかなりません」
写経は、本堂の縁側で長沢背稜(はいりょう)の山並みを眺めながら。般若心経が書かれた手本に半紙を重ね、約1時間かけて書き写す。
座禅は、本堂横の石段を上った禅堂内で。正しい姿勢などの説明を受けた後、10分間ほど禅を組む。禅堂は崖の上にある。窓に面した廊下でも座禅ができ、空に浮いているような感覚。大陽寺が「天空の禅寺」と呼ばれるゆえんだ。
浅見さんは先代の住職である祖父の跡を継ぐ前、東京でサラリーマンをしていたが、人間関係の悩みなどから35歳で仏門に入った。法話では、こうした経験から得た人生訓も聞ける。
禅堂の廊下でボランティアの木村光男さんが座禅を組んでいた。
「ふだんは東京の法律事務所で事務をしています。3年ほど前、ひとり旅でここに泊まり、リピーターになりました。年に数回訪れて、食事の準備や掃除などを手伝っています」
職場に戻ると再び忙しい日々が始まり、ここで見た景色を忘れてしまう。でも、自分をリセットしたくなったら、ふらりと戻って来ればいい。木村さんの話を聞きながら、これぞ究極のひとり旅かもしれない、そう思った。
(出典「旅行読売」2019年3月号)
(ウェブ掲載 2020年10月29日)
■宿坊体験タイムスケジュール
※季節・天候などにより変更あり、写経や座禅は空き時間に自由にできる
【1日目】
15時30分以降 チェックイン
16時~ 写経 ※座禅をしたい方は座禅堂は随時使用可
18時15分~ 読経 ※自由参加
19時15分~ 夕食(精進料理)
【2日目】
6時45分~ 読経 ※自由参加
7時15分~ 座禅 ※自由参加
8時30分~ 朝食(精進料理)※朝食のあとに法話がある日も
10時30分~ チェックアウト
※1泊2食9,500円/宿坊は完全予約制。寺の行事等で宿泊できない日があるので要事前確認。
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