【添乗員日記】船内の食事は超重要!「日本食」にまつわるこぼれ話
日本食をたっぷり詰め込んだスーツケース
南極クルーズでは、日本人シェフが同行し、毎食日本食をご用意しています。そば・味噌汁・ちらし寿司・いなり寿司・巻き寿司・炊き込みご飯などなど、たくさんの種類を提供しています。
この食材は、実はほとんど日本から持って行っています。日持ちのしないものは、船が出発するウシュアイアの町で購入し、船に積み込みます。しかし、手に入らないものがほとんどなので、15個ほどのスーツケースすべてに食材を詰め込み、日本から添乗員が手分けして持っていきます。
多いときは一人2つの食材用スーツケースを運ばないといけないため、自分のスーツケースを入れると3つ、空港で荷物を受け取ってからがとても大変です。まずスーツケースを運ぶのに、かなりの時間がかかります。カートに乗せ、運べたと思ったら次は検疫です。見るからに多すぎる荷物は怪しく見えて当然です。スーツケースの中までしっかりチェックされます。
もちろん、通常持ち込みのできない肉類や果物などの生ものは入っていません。しかし、検疫官も初めて見るであろう日本食の具材が、本当に安全かどうかわかりません。私が入国するときには「いなり寿司の皮」を没収されそうになりました。肉に見えたそうです。英語で日本食を説明するのはとても難しく、豆腐と同じと伝え、何とか没収を免れました。しかし、「梅干し」は検疫官が見つけてにおいを嗅いだ瞬間、ひどい形相になり、ごみ箱に入れられてしまいました。
検疫官によって、検査の仕方も様々なので、同じ食材を同じスーツケースに入れることはありません。1つ没収されても他で賄えるように、バラバラに入れています。10日間の船旅で日本食がないなんて考えられません! ほかにも、乾麺や桜でんぷん・醤油・粉わさびなど、調味料を中心に持っていきます。
無事積み込んだと思っても、安心はできません。食材の管理をしながらシェフとメニューを決め、実際に船のキッチンで調理するサポートをします。通訳が主ですが、これも一筋縄にはいきません。見たことのない野菜が出てきたこともありました。大根おろしを作るためのおろし器を頼んだ時に、チーズを振りかける器具が出てきたときにはびっくりしました。仕方がないので、シェフが包丁で細かく切り刻んで大根おろし風に仕上げていました。
日本では当たり前ですが、文化が違うとここまで苦労するんだな、と実感しました。そんな中で完璧な日本食を調理してくれるシェフには頭が上がりません。私たちの苦労と愛情もたっぷり入った日本食を、毎食楽しんでいただけたことと思います。
読売旅行/野村 彩乃