たびよみ

旅の魅力を発信する
メディアサイト
menu

神田神保町・須田町――カレーの香りに誘われ左へ右へ。書店街から老舗横丁へ

場所
> 神田
神田神保町・須田町――カレーの香りに誘われ左へ右へ。書店街から老舗横丁へ

秦川堂書店で見つけた古地図「昭和10年の神保町・小川町界隈」。2100円


学生時代、喫茶店で本を読むのが習慣だった。コーヒーを飲み、食べるのはカレー。右手にスプーン、左手に古書、がスタイルだった。学生街であり、世界屈指の古書店街である神田神保町に喫茶店とカレー屋が多いのもうなずける。神保町駅A1出口、専大前交差点を起点に、古書店街巡りから散策をスタートした。

古書店街は駿河台下交差点から専大前交差点まで、靖国通り南側約500㍍が中心だ。年に一度の大バーゲン、神田古本まつりは例年10月下旬~11月上旬開催で、歩道にずらりとワゴンが並ぶ。

神保町かいわいには150余の古書店があり、映画、音楽、浮世絵などの専門店もある。旅に関係が深い、地図や鉄道関係の資料が豊富な秦川堂書店に寄った。江戸・明治時代の観光案内や古地図、昭和の時刻表などがぎっしり。想像の翼を広げ、昔日を懐かしんだりするにはうってつけだ。

靖国通り沿いに古書店が軒を連ねる

「ウチで買った史料を読み込んで書かれたんですよ」と、店員さんが話したのは、「武士の家計簿」を著した歴史学者・磯田道史氏のこと。多くの物書きがこの店のお世話になっているに違いない。

古書店街をひと回りし、学士会館の脇から東へ向かう。樹木に覆われた広場のあるテラススクエアの前で「神田錦町市場」の幟を見つけて足を止めた。農産物や調味料、食品などが並んでいる。主催の皆川泰隆さんは、「地方のいいものを都会の消費者が使いやすいように提供したい」と商品プロデュースも手がける。

スーパーが少ない神保町エリアではありがたい存在でもある神田錦町市場

甘さと辛さが調和する濃厚な味わい

いつからか神田は、カレーの街となった。今では神田かいわいで400以上のカレー提供店がある。「神田カレーグランプリ」も定着した。神田のカレーナンバー1を決めるこのイベントは2019年で9回を数え、11月2・3日に神田駿河台下の小川広場で決定戦が行われる。昨年は4万人以上の来場者でにぎわった。

その初代グランプリに輝いた欧風カレー ボンディ神田小川町店で、ランチにチキンカレーを食べた。神保町本店の初代が考案したカレーは、リンゴを主体とした果物とタマネギなどの野菜を一緒にバターで炒め、赤ワインで煮詰めたペーストにスパイスを加える。甘さの中に辛さがあり、豊かな味わいだ。

神田カレーグランプリを主催する中俣拓哉さんによると、「近年はスパイスを利かせた『スパイスカレー』が多くなってきている」とのこと。野菜や魚中心のサラサラした南インドカレーの店なども増え、多種多様になっているという。

大ぶりの肉が入ったボンディのチキンカレー1500円。カレーにはポテトが付く

食後はカレーと相性のいいヨーグルトでひと息。斜め向かいに今年7月オープンしたホワイトカラーヨーグルトのヨーグルト&ソフトパフェに舌鼓。濃厚な飲むヨーグルトとミルクソフトクリームの組み合わせはベストマッチ。

コーヒーなら隣のGLITCH COFFEE&ROASTERSへ。

「苦みが出たら失敗なんです」と言う店主でバリスタの鈴木清和さんが焙煎するスペシャリティーコーヒーは、浅煎りでフルーティーな味わいが特徴だ。コーヒーの概念が変わるといっても過言ではない。海外でも知られ、外国人観光客も多く訪れる。

靖国通りを渡って秋葉原方面へ進む。淡路町交差点の先が旧神田連雀町だ。戦災を免れたため昔の面影を留めた家屋が残る。食通でもある作家、池波正太郎は戦前、やぶそばで飲み、ぼたんで鳥すきやき、竹むらでは粟ぜんざいと、軒から軒へ食べ歩いたという。竹むら、ぼたん、アンコウ料理のいせ源、神田まつやは、都選定歴史的建造物で、軒行燈に明かりが灯ると、いっそう風情が感じられる。

1912年開業の旧万世橋駅は、階段、壁面、プラットホームなどの遺構を生かし、ショップやレストランが入ったマーチエキュート神田万世橋に生まれ変わった。ホームに造られた展望デッキから中央線を眺め、そういえば電車内で本を読む人の姿をほとんど見かけなくなったなぁと、一抹の寂しさを覚えた。 

文・写真/田辺英彦

マーチエキュート神田万世橋

神田神保町・須田町グルメ

Spice Box(カレー/小川町)
南インドの5つ星ホテルで修業したシェフが作るスパイスカレー。ランチの2種カレーライスセット1480円~。夜は本格派南インド料理も。
TEL:03-5577-3909
11時~13時45分、18時~21時(ドリンクは~21時30分)/日曜、祝日休/千代田区内神田1-15-12 第2斉木ビル1階

ドース イスピーガ(スイーツ/小川町)
滞在経験のある女性店主が、厳選した素材を使って作るポルトガル菓子。香ばしい焼き目のエッグタルト250円、おさつケーキ390円。
TEL:なし
7時~18時(土曜、祝日は8時~15時30分)/日曜休、1の付く日休/千代田区神田小川町3-2 サツキ会館1階

神田まつや(そば/小川町)
国産そば粉を石臼でひき、打ちたてを出す。「店構えも、蕎麦も、むかしの東京をしのばせるにじゅうぶん」と池波正太郎。写真はごまそば935円。
TEL:03-3251-1556
11時~20時(土曜、祝日は~19時)/日曜休/千代田区神田須田町1-13

フクモリ(和食/秋葉原)
新しいタイプのカフェ定食店。牛そぼろ、山形だしなど山形名物満載の手巻き丼&みそ汁付き1400円(写真)。平日限定のランチ定食1100円。
TEL:03-6206-8381
11時~22時(日曜、祝日は~20時)/不定休/千代田区神田須田町1-25-4 マーチエキュート神田万世橋N10、N11

Spice Box
ドース イスピーガ
神田まつや
フクモリ

問い合わせ

●千代田区観光協会 TEL:03-3556-0391

●秦川堂書店 10時~18時30分(祝日は11時~17時30分)/日曜休/TEL:03-3264-2780

●欧風カレー ボンディ神田小川町店 11時~21時30分/無休/TEL:03-3295-5709 

●ホワイトカラーヨーグルト 12時~18時/日曜、祝日休/TEL:なし 

●GLITCH COFFEE&ROASTERS 7時30分~20時(土・日曜、祝日は9時~19時)/不定休/TEL:03-5244-5458 

●マーチエキュート神田万世橋 11時~23時(店舗により異なる)/不定休/TEL:03-3257-8910

 

■徒歩約40分(約2㌔)※古書店街散策含まず
神保町駅(地下鉄三田線・新宿線・半蔵門線A1出口)【スタート】
 ↓ すぐ
神田古書店街
 ↓ 12分(600㍍)
神田錦町市場
 ↓ 2分(100㍍)
欧風カレー ボンディ神田小川町店
 ↓ すぐ
ホワイトカラーヨーグルト
GLITCH COFFEE&ROASTERS
 ↓ 16分(800㍍)
旧神田連雀町
 ↓ 4分(200㍍)
マーチエキュート神田万世橋(旧万世橋駅)
 ↓ 6分(300㍍)
秋葉原駅(総武線・山手線・京浜東北線、地下鉄日比谷線、つくばエクスプレス)【ゴール】

 

(出典「旅行読売」2019年12月号)

(ウェブ掲載 2021年1月19日)

 

Writer

田辺英彦 さん

東京都大田区出身、埼玉県在住。旅行ガイドブック編集・執筆、出版業界誌執筆などを経てフリーランスに。東北・八幡平の温泉群と、低山ハイク、壊れかけたもの・廃れたものが好き。

Related stories

関連記事

Related tours

この記事を見た人はこんなツアーを見ています