ひとり心静かに訪れたい絶景「神磯の鳥居」
水戸藩第2代藩主・徳川光圀も参拝し、「あらいその岩にくだけて散る月を 一つになしてかへる浪かな」という歌を詠んでいる(写真/ピクスタ)
輝く太陽を海で迎える聖域の鳥居
初対面の「神磯(かみいそ)の鳥居」はすまし顔の少女のようだった。その日は快晴の青空。海も波穏やかで、水面に輝く陽光に包まれていた。夜は満月に照らされて、愁(うれ)いを帯びた貴婦人のよう。後日、大時化(おおしけ)の日に訪ねた時は高波が立ち、荒れ狂う鬼女を連想したものだ。
鳥居が立つ海上の岩場は「神磯」と呼ばれる聖域。1100余年前に大己貴命(おおなむちのみこと)と少彦名命(すくなひこのみこと)が降臨したと伝わる。2柱の神を祀るために平安時代に創建されたのが大洗磯前(いそさき)神社で、海岸後方の高台に社殿がある。
いつ訪れても新鮮な気持ちになる神磯の鳥居だが、もっとも神々しい瞬間は日の出だろう。水平線の彼方から日輪が顔を見せ、雲のある日は周囲を紫からオレンジに変えながら、快晴の日は黄金色に染め上げて、天高く昇っていく。
海上には光の帯が陸地に向かって伸び、シルエットの神磯の鳥居が受け止める。元旦の神事「初日の出奉拝式(ほうはいしき)」ほかで、幾度となく日の出を見てきた大洗磯前神社の権禰宜(ごんねぎ)・吉田卓史さんが「鳥肌が立つほどの絶景です」と感慨深げに話されたのを憶えている。
日の出を見た後は、高台の社殿を詣でたい。急傾斜の石段を上った先に待つ随神門、拝殿、本殿はすべて海に向かって建てられている。そのため、朝日が昇るにつれて、社殿の影が取り払われ、黄金色に輝いていく。参拝を済ますと、自分の心にも光が差したようで、清々しい気持ちになった。
文/内田 晃
住所:大洗町磯浜町6890
交通:鹿島臨海鉄道大洗駅から大洗町循環バス「海遊号」16分、大洗磯前神社下下車すぐ/北関東道水戸大洗ICから6㌔
TEL:029-267-2637(大洗磯前神社)
(出典「旅行読売」2021年2月号)
(ウェブ掲載 2021年3月22日)