【旅する喫茶店】茶房 速魚川(島原)
メダカや亀が泳ぐ池がある中庭。茶房は、主に猪原さんの奥さんと娘さんが切り盛りする
明治時代から続く金物店で湧水コーヒーを
雲仙岳を見上げる島原の城下町は、町の方々から伏流水が湧く水の都だ。旧島原街道沿いに立つ1877年創業の猪原(いのはら)金物店も井戸から毎分150㍑の水が湧く。刃物や金物の商品が並ぶ店の奥、中庭に面して座敷・テーブル席を設けて喫茶店にしており、移ろう光や緑を見ながらコーヒー、甘味が味わえる。
「ここは江戸時代の目抜き通りで古い商店街。平成3年の雲仙岳噴火で衰退傾向に拍車がかかりました」と5代目店主の猪原信明さん。店を継ぐにあたり商店街活性化を研究して、古い物を生かしつつ情報を発信する手法を模索。1998年、明治の建物を改修して茶房を開いた。開業にあたって井戸から店の表まで川を引き、速魚川(はやめがわ)と名付けてビオトープ(生物空間)に。今では水草が生え、ハヤが泳ぎ、モクズガニが棲む癒やしの空間になった。
「昔の人は手入れをしながら道具を一生使いました。建物も動態保存する必要があります」と猪原さん。一方で新情報も必要という。店内に画家や陶芸家の作品を展示し、中庭で音楽ライブやギリシャ悲劇などの演劇を行うこともある。
水道は引かず全て湧水でまかなう。口当たり軟らかなコーヒーとともに島原名物の寒ざらしを賞味。若い人には特製のかき氷や地元野菜のカレーも人気というから、新旧を大切にするこの店らしい。
文・写真/福崎圭介
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