こんな神々しい空間で浮世の塵を洗い流し、ガツンと効く湯で体の芯まで癒やされる。日本の湯治文化の素晴らしさに想いを馳せずにはいられない

奥会津の山里にある西山温泉は八つの源泉が湧いていて、すべてに入浴すると万病に効くと伝わり、地元では「神の湯」と呼ばれたそうだ。現在、西山温泉には５軒の温泉旅館があるが、なかでも老沢温泉旅館は実に「神の湯」の名にふさわしい温泉宿である。この宿だけがいまだに典型的な昔ながらの湯治宿風情を残していると いうこともあるけれど、なによりも、浴室がまさに神の空間だったりするからだ。なんと、浴室内に神社があるのだから。

科学が発達していない昔、温泉とは霊験（れいげん）あらたかなものとされ、だから昔ながらの温泉には浴室に神仏が祀（まつ）られていることがけっこうあるけれど、神社があるのはとても珍しい。こういう温泉文化を 色濃く感じさせてくれるのも、秘湯の魅力の一つだったりする。

混浴の浴室がストイックなところもこの秘湯の神聖度を高めている。カランもシャワーもなし。ただ、コンクリート造りの湯船が三つあるだけ。そんな空間の最奥に例の神社が鎮座している。湯も黒い湯の華と白い湯の華が混在する珍しいもので、熱めの湯につかるとみるみる体がぬくもっていく。湯治の湯ならではの効く湯だ。さすがは「神の湯」。そんな神々しい空間での入浴体験は間違いなく忘れられないものになるはずだ。

この時は泊まりではなかったけ れど、仲間が宿泊で部屋をとっていたので、湯上がりにおじゃましてビールをいただいた。部屋はリニューアルされているが建物自体は明治時代のもので、天井がやけに低いところがそれを実感させてくれる。ここは料理もおいしいと聞く。豪華というのではなく素朴でいかにも山間の料理。旅館によくありがちな画一的なものではない。名物の馬刺しがついてくるというので酒飲みにもうれしい。

ううむ、想像するだけでたまらん気持ちになってくる。というわけで今度は必ず泊まりで来ようと心に強く誓ったのでありました。

文・写真／岩本 薫

西山温泉 老沢温泉旅館

住所：柳津町五畳敷老沢114

交通：只見線会津柳津駅からタクシー20分、または柳津町ふれあい館発のバス（支所本庁線、月～土曜は1日4往復、日曜と祝日は運休）20分、五畳敷下車徒歩7分／磐越道会津坂下ICから18㌔

TEL：0241-43-2014

ひとり泊の料金：1泊2食9000円～、自炊4000円～（2人1室同料金）

※掲載時の料金。コロナ禍のため、会津エリアの宿泊者のみ受け付けや休業の場合あり。要問い合わせ。

ひとり泊の条件：通年可

ひとり泊の客室：トイレなし5畳または6畳和室（全5室）

ひとり泊の食事：夕・朝食＝部屋