泡の湯旅館 ぬる湯の炭酸泉で気泡に包まれる
湯口から流れ出る湯の音だけが響く混浴露天風呂。かけ流しの湯に加温した湯をまぜて調節している
北アルプスの秘湯、白骨温泉
バスがトンネルを抜けると、根元に雪が張り付く冬枯れた木々の山並みが見渡す限り続いていて、季節を早送りしたようだった。
林道を下るにつれて谷あいの集落のような温泉街が近づいてきた。目指す泡の湯旅館は、10軒ほどの宿がある白骨(しらほね)温泉の温泉街から離れて立つ1軒だ。
白骨温泉は北アルプスの山あい標高1400㍍にある、まさに秘湯。江戸中期の元禄年間に温泉宿が開かれ、「白船」とも呼ばれたが、大正時代に中里介山が小説「大菩薩峠」で「白骨」と書いてこちらが定着した。湯量豊富な温泉と国民保養温泉地に指定された静かな環境が魅力の湯治場風情は健在だ。
巨大な混浴露天風呂で雪見を楽しむ
上高地や乗鞍が近いため夏や紅葉期はにぎわうが、冬は静まり返っている。
「長野県のスノーモンキーを見た後に、飛騨高山の町並みへ向かう途中に寄っていく外国人が増えています」と泡の湯旅館のスタッフ話す。
明治後期の1912年に創業したこの旅館は、70畳ほどの広さの混浴露天風呂で知られる。湯船は新館のすぐ前にあるが、内湯から続く出入り口から白濁した湯につかって入浴でき、湯浴み着を着てもいい。冬(例年12月中旬~3月下旬)は1㍍を超えて積もる雪にぐるりと囲まれた青白色の湯につかり、木々や星空を見上げる開放感が味わえる。
竹カゴで麺を温める地元の投汁そば
湯は自家源泉から引く含硫黄―カルシウム・マグネシウム―炭酸水素塩泉で、硫化水素系の匂い、いわゆる硫黄臭がする。湯量は毎分1730㍑と豊富だ。この湯を堪能できるのが内湯。37度のぬる湯は常に湧きたての源泉を注ぐため酸化せずに透明で、体表にびっしり気泡がつく。泡の湯という宿の名前もここから。冬はやや寒いが浮遊感が心地いい湯につかっていると、体がほぐれ、芯まで温まる。
湯上がりは食事処で会席料理を。この山奥でクエの刺し身やチーズフォンデュが出てきたのは驚いたが、投汁(とうじ)そば、川魚など地元らしい料理もあり、秘湯の夜をゆっくり味わった。
文/福崎圭介
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