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山城ハイク!出陣のススメ

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山城ハイク!出陣のススメ

高天神城の土橋

天守がなくても「城」

木々の葉が落ち展望が開ける山城のシーズンがやってきました。今回オススメするのは、「山」でも「城」でもなく、「山城」です。山城とは、山の地形を利用して築かれた城のことで、山頂部を中心に設計された、領地を守るための防衛施設です。

実は全国にある城の数は、3万とも4万ともいわれています。城というと、姫路城のように天守があり、石垣がそびえ、水堀で囲まれた姿を想像するかもしれません。しかし、城のほとんどは南北朝時代から戦国時代に築かれた「山城」で、天守もなければ、水堀もありません。天然の要害である山を利用し、土を掘り、土を盛って、敵の来襲を防ぎました。

「城」という字は「土で成る」と書くように、その領地の政治、経済、文化、生活などを守るために、土木工事によって築かれました。天守がなくても、その構造物がまさに「城」です。

向羽黒山城の堀
向羽黒山城の堀

地名に残る山城の足跡

中でも山城は、領地を守るために山麓から山頂までさまざまな仕掛けや工夫を施して敵に備えました。山城を歩くと、当時の人々の息遣いを感じるような「土のあと」が随所に残り、歴史ロマンを感じて心が震えます。

山城の魅力は、なんといっても身近にあること。思い立てば気軽に足を運べます。散歩途中に目にしている山や、通勤電車から眺めている山、休日にハイキングで訪れる気持ちのいい山も、実は山城かもしれないのです。山を歩いていると突然現れるデコボコした地形も、もしかしたら堀や土塁かもしれません。

山城の手がかりになるのは、「城山」という名前はもちろんのこと、「鐘打山」、「貝吹山」、「陣山」、「根古屋」などの呼び名が残る場所です。鐘打山や貝吹山は合図の鐘や法螺貝を鳴らした山と伝わり、「陣」と付く山は敵の軍勢が陣を敷いた場所かもしれません。根古屋は、城主や家臣の屋敷があった場所だと思われます。

そんな身近にある山城は、ハイキングにもってこいのスポット。2時間程度の山歩きで歴史を体感できます。尾根道がまさにタイムスリップの扉となり、私たちを歴史の世界へ誘ってくれるのです。

大築城の堀
大築城の堀

縄張図を持参し出かけよう

私は天守などの建物が残る城よりも、山の中に突如として現れる苔むした石垣や、土塁、堀のような「土のあと」を残す山城にワクワクします。何百年も手つかずの状態で残る遺構に思いを馳せ、歴史を考えることで、知的好奇心が刺激されます。

このような山城は、夏は草が生い茂り、虫や熊が出るため〝出陣〞には不向きです。地域差がありますが、一般的に10月中旬〜4月下旬がベスト。長袖、長ズボン、トレッキングシューズという山歩きの服装はもちろん、軍手や手袋、熊鈴も持っていきましょう。

それに一番忘れてはいけないのが、城の図面である「縄張図」です。これがないと、遺構に気付かず、ただの山歩きになってしまう可能性があります。インターネットや書籍で入手した縄張図を持参し、ぜひ山城を訪れ、歴史を肌で感じてください。

山城は、城主が在城する場合もあれば、狼煙台や物見台のように簡易的なものまでバリエーションに富んでいます。リュックを背負って、トレッキングシューズを履いたら、歴史ロマン満載の山城へいざ、出陣!


文・写真/山城ガールむつみ

有子山城の石垣
有子山城の石垣

(出典「旅行読売」2021年12月号)


(ウェブ掲載2022年2月25日)


Writer

山城ガールむつみ さん

歴史&山城ナビゲーターとして、歴史や城をテーマにしたイベントや講座、ツアーを多数開催。地域活性のため、埋もれている歴史の掘り起こしなど、歴史コンサルとしても活動し、御城印デザインやプロデュースも手がける。

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