【旅する喫茶店】五十鈴川カフェ(伊勢)
座敷席もある店内は川に面して細長く、どの席からも見られる
伊勢神宮の内宮からの清流を眺めながら
降り出した雨が伊勢神宮・内宮(ないくう)へ続く参道の石畳や、商店街の軒瓦を濡らし始めた。通りにひしめく傘を避(よ)けながら雨宿りしようと、旧伊勢街道沿いの「おかげ横丁」を抜け、路地奥のカフェに入った。
名前の通り五十鈴川(いすずがわ)に面する店は、どの客席からも川を眺めるリバーサイドカフェ。むき出しの梁(はり)が古民家のように見える建物は、伊勢参りの往時の町並みを再現した「おかげ横丁」が完成した1993年以降に建てられたもので、意外に新しい。2008年に居抜きでカフェが入り、隠れ家的な雰囲気の人気店になっている。
「場所柄、参拝の方がほとんどで、来年また来るねと言ってくださる常連客もいらっしゃいます」と話すのは店長の田島理香さん。「内宮から流れてくる川の眺めが自慢です。初穂を納めるため船を引いて川を上る神事、川曳(かわびき)も見られます」
注文を受けてから豆を挽きネルドリップでいれるこだわりのコーヒーを飲みつつ、雨粒の跡が立つ川面を眺めた。内宮前で聖域と俗世を分ける川は音もなく流れる。対岸に「幸運の木」と呼ばれるヤドリギが見え、この不思議な形の木をモチーフにしたケーキもある。参道のにぎわいが嘘のような静寂。コーヒーを飲んで温まると、再び目的地まで歩こうという力が湧いてきた。
文・写真/福﨑圭介
住所:三重県伊勢市宇治中之切町12
交通:参宮線伊勢市駅、近鉄宇治山田駅からバス20分、神宮会館前下車徒歩3分
TEL:0596-23-9002
(出典:「旅行読売」2022年7月号)
(WEB掲載:2022年6月26日)