カフェ内蔵丞(温泉津温泉)【旅する喫茶店】
古い温泉施設がカフェとして復活
世界文化遺産・石見(いわみ)銀山の構成資産の一つである温泉津(ゆのつ)に現存する最古の温泉施設が、現在はカフェとなっている木造洋館である。「内蔵丞(くらのじょう)」の名は、毛利氏から築城と奉行の任を受けた内藤家初代の名前から取ったものだ。以来、内藤家は450年間この地に住み続け、内藤陽子さんはこのカフェと隣接する「薬師湯」の代表を務める。
1872年、温泉津を浜田地震が襲った。すると敷地内で湧き出していた温泉の湯量は増え、以降、その湯は「震湯(しんゆ)」と呼ばれて親しまれ、1919年には木造洋館の湯殿が完成した。54年にはその隣に共同浴場として現在の薬師湯(旧藤乃湯)が立つ。その後、木造洋館は湯殿としての役目を終える。
時は流れ、石見銀山が世界遺産に登録される前に、ロンドンから戻った息子さんが「建築学的に貴重な木造洋館をカフェにしよう」と発案し、2005年にオープン。内藤家で使われていた家具や蔵にあった重厚な家具が、カフェに運ばれた。
オリジナルメニューは、銀山の歴史にちなむものや地元の食材を使った手作りの逸品。大地の恵みの天然温泉に存分に癒やされ、木造洋館の落ち着ける空間で食やドリンクをゆっくり楽しむ。
「共同浴場からカフェに変わりましたが、この風情を楽しんでほしいですね」と、陽子さんは話す。