【47都道府県自慢の秋絶景】屋島
北嶺の展望台・遊鶴亭からの展望。瀬戸内ブルーの海と多島美が織りなす絶景に酔う
320度の多島美と義経の伝説
高松駅から東へ約4キロ、標高約290メートルの屋島は、火山活動と侵食が生んだテーブル状の巨大な台地。屋根のように見える地形が名の由来で、平らな山上は南嶺と北嶺の二つのエリアに分かれている。
遊鶴亭(ゆうかくてい)は北嶺の端にある穴場的な絶景スポット。山上観光駐車場から片道約2キロあるが、傾斜が少ない道なのでウォーキングに最適だ。のんびり歩いて40分。到着すると、ぽっかり視界が開けて320度の多島美が見渡せた。海と空が溶け合うような一面の青と、凪(な)いだ海面に浮かぶ無数の島々。男木(おぎ)島、大島、小豆島(しょうどしま)から瀬戸大橋まで見渡せて圧巻だ。瀬戸内らしい大らかな多島美に、足の疲れも一気に吹き飛ぶ。
途中の案内板で興味深い歴史を知った。江戸時代に埋め立てられるまで、屋島は四方を海に囲まれた島だった。天然の要塞は、いつの時代も格好の軍事拠点として着目される。飛鳥時代は中大兄皇子(なかのおおえのおおじ)が山城・屋嶋城(やしまのき)を築き、平安時代は源平合戦「屋島の戦い」の舞台ともなった。
南嶺エリアには、源平合戦の古戦場を見下ろす展望台・談古嶺(だんこれい)や、城門付近と城壁の一部を復元した屋嶋城跡、四国八十八か所の札所・屋島寺など見どころたっぷり。展望台は各所にあるが、歴史マニアがまず目指すのが談古嶺だ。那須与一(なすのよいち)が源義経に命じられ、扇の的を射た『平家物語』の名場面。伝説の地となる入り江を眼下に見据え、武将たちの勇姿を思うのも心楽しい。
さらなる目当ては、この夏オープンした屋島山上(さんじょう)交流拠点施設「やしまーる」。回廊型の斬新な建物で、曲線を描くガラスの壁面が外部の自然と溶け合うアートな空間である。リング状の回廊は全長約200メートル。屋根瓦に特産の庵治石(あじいし)を使っているのも大きな特徴だ。
館内は展示や展望を楽しめるスペースやカフェがあり、仕切りを設けない流動的なデザイン。瀬戸内海から讃岐(さぬき)平野までを一望すると、都市の景観を含めて魅了された。
やしまーる
地形の起伏に合わせた緩やかな回廊が印象的。展望スペースのほか、大規模なアート作品を展示するパノラマ展示室、屋島の歴史や自然を伝えるローカル展示スペースなどがある。設計者は建築家・周防貴之氏で「瀬戸内国際芸術祭2022」の参加作品。
9時〜16時45分(金・土曜、祝前日は〜20時45分)/火曜(祝日の場合は翌平日)休
屋島山上観光駐車場から徒歩7分
やしまーる TEL:087-802-8466
最後に山麓の四国村ミウゼアムを訪ねる。主に四国4県から移築・復原した古民家などを、自然豊かな傾斜地に30棟以上も配置する野外博物館だ。醤油(しょうゆ)蔵や農村歌舞伎舞台、砂糖しめ小屋など江戸から大正時代にかけての建物を見て歩く。かつての仕事や庶民の暮らしぶりを感じ、思いがけず胸が熱くなる。
うどん店「わら家」の店舗も、徳島県祖谷(いや)地方の古民家を移築したもの。釜揚げうどんを注文すると、つけだしが一升徳利(とっくり)で運ばれてきて驚いた。いりこ風味の濃い目のだしが、コシの強い麺にほどよく絡(から)む。絶景と歴史、民俗文化から素朴な郷土料理まで。屋島の旅は壮大で奥深く、ドラマチックだ。