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十麺十色 全国ご当地うどん「讃岐うどん」(香川)

場所
> 高松市、丸亀市
十麺十色 全国ご当地うどん「讃岐うどん」(香川)

たも屋本店の肉うどん(別皿で提供された肉を好みのタイミングでのせる)

“うどん愛”が生む極上食感

全国津々浦々に知れ渡る香川県民のうどん好き。「1日平均1人3玉食す」、「麺は噛か まずに飲むもの」など都市伝説のような話もよく耳にする。その信憑(しんぴょう)性はさておき、高らかに「うどん県」を宣言した土地柄である。現地ならではの讃岐うどんの味とその食文化を確かめるべく高松市に向かった。

まずは朝8時開店の「たも屋 本店」で〝朝うどん〞を体験する。この店の形態は原型とも言えるセルフタイプで、麺は客が自分で湯がく。店員が湯がいて渡すセルフ店が増えた今、珍しさもあってコアなファンからも支持を集めている。ちなみに完成形を運んでくるフルサービスの店は「一般店」、製麺所でうどんを出す店は「製めん所系」と分類される。県内には約560軒のうどん店があり、人口当たりの店舗数は香川県が日本一を誇るという。

うどん愛の神髄を語る「たもや 本店」の丸川店長

店内に入ると厨房が見通せて、麺を打つスタッフの姿に気分が高まった。まずはお盆を手に取って注文口で食べたいメニューと、うどん玉の数を告げる。麺入りの器を受け取ったら、温め湯のコーナーに移動。麺がほぐれるまで数秒湯がき、しゃんしゃんと振って湯切りする。

麺を自分で温めるのも新鮮な体験。素早くこなすのがポイントだ

艶やかに光る麺を器に戻して天ぷらなどを選んだら、タンクからだしを注入。清算後にネギやワカメ、天かす、大根おろしなど無料の薬味を自由に載せたら完成だ。先客の動きを注視して、後ろについてまねれば初心者でも大丈夫。

麺をひと口すするとソフトな弾力性と絶妙なもっちり感。伊吹島産のいりこを使った黄金色のだしが絡まって「これぞ本場の味」としみじみ噛みしめる。
 

だしのタンクは数種あり、温度や濃度が異なる
薬味はどれも無料。たっぷりの大根おろしがうれしい

その間にも次々と客が来て、それぞれの〝朝うどん〞を素早く胃に収めて去ってゆく。「朝一番に食べに来て、昼にまた来るお客さんも多いですよ」と店長の丸川孝さんが愛想よく話してくれた。

「私も食べ物の中でうどんが一番好きです。1日3食うどんの日もありますね。香川のうどんは安いし、うまいし、早い。ええとこしかないから拒む理由がない」。地元育ちの丸川さんが、うどん愛をきりりと語った。

小麦粉と塩水をこねた生地を丸める麦香店主の市坂さん

異彩を放つ郊外の人気店「麦香」

続いて訪ねたのは、のどかな田園風景が広がる丸亀市綾歌町だ。讃岐うどん店「麦香(ばくか) 」の前に立つと、円錐す い状の美しい讃岐富士(飯野山)が望めた。店主の市坂淳市さんがここで店を始めたのは9年前で、以前は製麺会社で働いていたとのこと。市坂さんがこだわるのは、店名が示す通り麦である。

「国産小麦でうどんを作りたくて、日本各地から小麦を取り寄せて試作を重ねました。今は地元香川と北海道、三重県産の小麦を使って、風味や食感、弾力の良い独自の配合でブレンドしています。香りもいいですよ」と市坂さん。評価が高いオーストラリア産小麦の使用が一般的な中、あえて我が道を行くスタイルだ。

麺はゆで置きせず、茹でた手を提供する。「うどんは生き物」と麦香店主の市坂さん

麺は注文を聞いてからゆで始めるので、客たちはそれを承知でゆったりと席で待つ。10分ほどして私が注文した「とり天ぶっかけ」が運ばれてきた。香りを意識しながらやや細めの麺を口に入れると表面は滑らか。早朝から生地を足踏みするなど、鍛えては休ませてを繰り返して作られた麺は中心部にコシがあり、もちもちっと押し返してくるような食感だ。

麦香の「とり天ぶっかけ」濃いつけ汁で麺を味わう
スパイスが効いている「クリーミーカレーうどん」
うまみたっぷりの「あさりうどん」

県内の養鶏所から仕入れるという鶏肉の天ぷらも、濃いめの汁にサクッと馴染じんで香ばしい。本日2杯目のうどんも、忘れがたい旅の記憶になりそう。

伝統食にして日常食であり続ける讃岐うどんは、店も味も豊富な選択肢があって飽きることがない。近年では食感嗜し好こうの変化に伴い、コシの強さに加え、もちもち感も重視されるそうだ。県民の多大なうどん愛で進化して行く食感と、香川で開花した魅惑の食文化に感服して、ごちそうさま。

店舗情報

■たも屋 本店

豊富な揚げ物や無料の薬味などサービス精神あふれるセルフ方式の店。
8時~15時/無休/イス、座敷など86席/高松市朝日新町1-16/TEL:087-821-4480
【取り寄せ情報】http://shop.tamoya.com/

■麦香(ばくか)

地産地消をモットーに国産小麦で作る味が評判。おでんも魅力だ。
■10時~15時(売り切れ次第終了)/水曜休/イス、座敷など38席/丸亀市綾歌町岡田上1898-3/TEL:0877-86-2910


(旅行読売2021年10月号掲載)

(WEB掲載:2021年11月25日)


Writer

北浦雅子 さん

和歌山の海辺生まれで、漁師の孫。海人族の血を引くためか旅好き。広告コピーやインタビューなど何でもやってきた野良ライターだが、「旅しか書かない」と開き直って旅行ライターを名乗る。紀伊半島の端っこ、業界の隅っこにひっそり生息しつつ、デザイナーと2人で出版レーベル「道音舎」を運営している。https://pub.michi-oto.com/

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