【永井千晴さんが選ぶ 私の極上温泉】湯河原温泉 オーベルジュ湯楽
毎分70リットルが湧く自家源泉をかけ流す。人気の貸切露天風呂では、周囲の自然を眺められる
ながい ちはる
1993年、神奈川県生まれ。一般企業に勤めながらSNSで推しの温泉を紹介している、市井の温泉好き。足元から湧く温泉、ぬるい温泉を愛している。著書は『女ひとり温泉をサイコーにする53の方法』(幻冬舎)
かけ流しの自家源泉に浸り、コース料理で旬を味わう
その土地ならではの旬を味わうことは、豊かな自然と四季に恵まれた日本を旅する楽しみの一つだろう。宿泊先が温泉地のオーベルジュなら、湯上がりに極上のディナータイムが約束されている。
万葉集にも詠まれた古湯・湯河原温泉は、箱根外輪山の南麓から相模湾へと注ぐ藤木川(千歳川)の河原に湧く。山海に挟まれた風光明媚(めいび)な土地と、温暖な気候が文豪たちに愛され、物語の舞台となってきた。
東海道線湯河原駅までは東京駅から特急でおよそ1時間。万葉公園の入り口でバスを降り、歴史ある旅館や温泉やぐら、川に架かる赤い橋を横目に、温泉街のメインストリートを歩く。藤木橋を過ぎて急坂を上ると、オーベルジュ湯楽に到着する。
支配人でシェフの松村進さんは、もともと客として湯楽に出合ったのだという。「ここで味わった料理は何もかもおいしく、感動しました。山、海、川のある湯河原は、食材の宝庫なのです」と松村さん。相模湾で獲れる魚介類や地元で育つ有機野菜を用い、ここでしか味わえない料理を提供することで、料理を主目的とした温泉旅へと誘(いざ)なっている。
目当ての夕食の前に、まずは温泉で心身をほぐす。ヒノキ風呂と石造りの大浴場は男女入替制。そのほかに貸切風呂が二つあり、チェックイン時に予約すれば無料で利用できる。中でも竹林を望む広さ20畳ほどの貸切露天風呂は人気が高い。星空も眺められるので、食後の時間帯に予約を入れておくのも一案だ。いずれの湯船も源泉かけ流しで、湯はヌルッとした肌触り。江戸時代の温泉番付で三役に名を連ねた湯河原温泉の、効能高い湯が堪能できる。
食事は併設のレストラン「ピノクラーレ」でいただく。地物の生海苔(のり)や野菜を練り込んだ自家製パンが登場するイタリアンコースは全9品。
天然地魚のカルパッチョ、鮮魚のグリル、黒毛和牛リブロースと、一皿一皿を旬の食材が彩る。魚料理は利用客の期待度も高く、「火入れと塩に気を付けています」と松村さん。水揚げされたばかりの鮮魚の弾力とうまみを存分に楽しもう。
秋から冬にかけてのイチオシを尋ねると、「追加料理、またはシェフ特選コースでお召し上がりいただくトリュフご飯です。トップシーズンなので、とても香りがいいですよ」と教えてくれた。コース料理は3種あり、料理も毎月変わるので、リピーターが多くなるのも納得がいく。
客室は全18室で、広縁付き10畳和室が中心。温泉のヒノキ風呂付きや洋室スイートルームも用意され、「大人の一人旅プラン」の利用であっても部屋タイプを選べるのがうれしい。館内の「湯楽文庫」には湯河原や旅に関連した本がそろい、ゆったりとした時間が過ごせる。
翌朝は朝風呂につかって心身を目覚めさせたら、再びレストランへ。炊きたてご飯に旬の魚、地元野菜たっぷりのサラダや小鉢の数々が、体の中から元気にしてくれる。
チェックアウト後、アート好きは「栖鳳(せいほう)通り」とも呼ばれる湯元通りを歩いて町立湯河原美術館へ向かいたい。竹内栖鳳や安井曾太郎(そうたろう)ら湯河原ゆかりの画家の作品が見られる。温泉街の中心にある万葉公園は2021年にリニューアルし、憩いの空間として進化を遂げた(下記参照)。
料金:1泊2食平日1万6950円~、休前日2万2950円~(1人1室は1万6950円~)
客室:全18室
食事:夕食・朝食=レストラン
泉質:アルカリ性単純温泉
貸切:貸切風呂2(無料)
※料金は雑誌掲載時の金額です
TEL:0465-62-4126
住所:神奈川県湯河原町宮上528
交通:東海道線湯河原駅からバス10分、公園入口下車徒歩7分/真鶴道路福浦ICから6㌔
湯河原惣湯 Books and Retreat
2021年、湯河原を象徴する万葉公園内に誕生。「玄関テラス」には観光案内所やカフェ、ライブラリーがあり、木々を眺めつつリフレッシュできる。渓流沿いの散策路を歩き、点在するテラスで読書や軽食を楽しむのもいい。第3日曜には小さなマーケットも開かれる。
「玄関テラス」は10時~17時30分/第2火曜休
交通:東海道線湯河原駅からバス10分、落合橋下車すぐ
TEL: 0465-43-7830
文/内山沙希子
(出典:「旅行読売」2022年12月号)
(WEB掲載 2022年1月2日)