【鉄道開業150年】100年駅舎の旅(2)
ターミナル駅の雰囲気を今に残す頭端式ホームの門司港駅
大正、昭和初期の駅舎
日露戦争後になると再び私設鉄道の設立が相次ぎ、1919年の地方鉄道法の公布と前後して、現在の都市部の民営鉄道網が形成されていく。またこの頃は“大正ロマン”と称される文化思想が流行し、西洋の建築様式を取り入れた駅舎が次々と建てられていった。
1914年に建設された鹿児島線門司港(もじこう)駅の2代目駅舎(2019年に創建時の姿に復元)は、ネオ・ルネサンス様式の左右対称の意匠が特徴。モルタルで塗られた石張り風の外壁や天然スレート葺きの屋根に気品が漂っている。駅舎では東京駅と門司港駅だけが国の重要文化財に指定されている。
1921年の駅移転に際し建て替えられた東北線白河駅の駅舎は、ヨーロッパのハーフティンバー様式を取り入れている。柱や梁(はり)などの骨組みを外に見えるようにした建築様式。白を基調とする中で赤い三角の瓦屋根が目を引き、みちのくへの玄関口として建てられた往時の様子がうかがい知れる。
1926年築の琴平電鉄(現・高松琴平電気鉄道)の滝宮駅もハーフティンバー様式を取り入れている。初代社長が関西の私鉄を視察した上でデザインさせたという駅舎はそそり立つ屋根が特徴的で、今は下見板張りとなっている外壁も当時はモルタルだったそうだ。
富士身延鉄道(現・身延線)の本社が置かれた南甲府駅は、1928年築、RC2階建ての駅舎で、中央出入り口の2本の太い柱や2階部分のアール・デコ風の3連アーチの窓に風格が漂っている。
文化財の駅舎、喫茶店のある駅舎
物資輸送などを目的に大正期に開業した鉄道にも古い駅舎が残る。1912年に開業した足尾鉄道
(現・わたらせ渓谷鐵道)の上神梅(かみかんばい)駅は、木製の改札口やベンチなど沿線の中で特にレトロ。同路線は登録有形文化財が38件と、1路線としては全国一を誇り、「土木学会選奨土木遺産」にも選ばれている。
1924年に北海道の釧網(せんもう)線が延伸開業する際に建てられた北浜駅も往時の姿を残す。木造平屋建ての駅舎は北海道では標準的な形だが、ホームから流氷を望む唯一無二のロケーションが旅情を誘う。駅内には喫茶店「停車場」がある。
鉄道利用者にとって駅は単なる通過地点にすぎない。しかし、私は人それぞれに何かしら思い出が残る“特別な思いが宿る場所”だと思っている。2007年に始まった連載「駅舎のある風景」は今回で終了するが、これからも“駅の魅力”を発信し続けたいと思う。
文・写真/越 信行