春を告げる桜餅あれこれ(2)
名古屋の両口屋是清が販売する「桜もち ういろう製」
2種の桜餅が全国に分布
全国各地の桜餅は長命寺(ちょうめいじ)餅と道明寺(どうみょうじ)餅の二つの流れを受けている。長命寺餅は関東・甲信越、岩手、福島に多い。食紅でほんのり色付けする道明寺餅は西日本に広がり、北海道や青森、山形にも分布するのは江戸時代の北前船の流通経路にあったからだろう。
東西の中間の名古屋にある両口屋是清(りょうぐちやこれきよ)の近藤美香さんに聞くと「中京圏はほとんどが道明寺」とのこと。同店ではもっちりしたういろう製の「桜もち」も販売している。
東西の文物が併存する富山県高岡市の不破福寿堂(ふわふくじゅどう)の不破亮太郎さんによると「北陸では桜餅はイコール道明寺のイメージです」。しかし東京の菓子店での修業を生かして10年ほど前から関東風の製造も始め、今では3割を占めるほどになった。
桜の開花が5月になる北海道の桜餅は道明寺。千歳市にある「もりもと」の島崎あかねさんに尋ねると、同店ではふっくら炊き上げた北海道産もち米の中にこし餡を入れて丸める。見た目は関西風だがいわゆる道明寺粉は使わない。店独自の桜餅だという。
佐賀県小城市にあり、昔ながらの小城羊羹で知られる村岡総本舗の村岡由隆さんの話では「九州は道明寺粉を使う関西風」とのこと。同店ではユニークなことに、3月1日に関東風桜餅、同25日に関西風桜餅を、それぞれ1日限定で販売する。
桜葉生産日本一の伊豆・松崎町
桜餅に使う桜葉の品種は、塩漬けすると甘く香り立つオオシマザクラである。その生産量が全国の70%を占めるのが伊豆半島南西部の松崎町だ。環境省が選定した「かおり風景100選」にも「松崎町桜葉の塩漬け」として選ばれている。栽培農家は50軒を数え、収穫は4月~9月。若葉を1枚ずつ手摘みで集めて塩漬けする。
その松崎町では、「桜葉日本一の町らしい名物菓子を」との町長の掛け声で、50年ほど前に梅月園の2代目社長が「さくら葉餅」を製造販売した。上新粉の生地でこし餡を包み、桜葉ですっぽりくるんだ関東風である。葉ごと食べる人が多く、本場らしく菓名にも「葉」がしっかり付いている。
今年ももうじき、桜餅の季節がやってくる。
文/中尾隆之
住所:愛知県名古屋市中区丸の内3-22-6
TEL:052-961-6811
住所:富山県高岡市京田140-1
TEL:0766-25-0028
住所:北海道千歳市千代田町4-12-1
TEL:0123-26-0218
住所:佐賀県小城市小城町861
TEL:0952-37-3173
住所:静岡県松崎町櫻田149-1
TEL:0558-42-0010
(出典:「旅行読売」2023年4月号)
(WEB掲載:2023年3月5日)