春を告げる桜餅あれこれ(1)
桜餅発祥の店、東京都墨田区の長命寺桜もちの「桜もち」
桜餅の発祥は東京・隅田川の堤の向島
桜の季節が近づくと食べたくなるのが、香りも芳しい桜餅である。桜餅は餡入りの餅を塩漬けの桜葉で包んだ春の和菓子だが、餅の生地は関東では小麦粉、関西ではもち米と異なり、大まかには「長命寺(ちょうめいじ)桜餅」と「道明寺(どうみょうじ)桜餅」に区分される。
期間限定販売の場合は、売り出しが2月~3月と開花より1、2か月早い。桜餅で春を先取りしたいという思いの表れだろう。
桜餅が誕生したのは1717年。下総国(千葉県)の銚子から江戸に来て向島の長命寺の門番になった山本新六という人物が、散り積もる桜の葉を何とかしようと、塩漬けにして餅をくるんで売り出したことに始まる。寺の前の隅田川の土手は桜の名所で、桜餅は大いに売れた。1824年の記録には桜葉の漬け込みが年間77万5000枚とある。桜餅1個に2枚ほど使うので38万個以上が売れた計算になる。
桜葉の香りとさっぱりした甘さの漉し餡が口の中に広がる
桜葉の香り、保湿性、ほんのりとした塩気、餡の甘さが人気を呼び、桜餅は各地に広まった。その発祥の店は、長命寺に隣接して桜餅一筋に11代、300年余続く「長命寺桜もち」である。緋毛氈(ひもうせん)の縁台が置かれた茶店風の店内で、杉の桝で出てくる桜餅は薄く焼き上げた白いクレープ状の餅皮で餡を二つ折りに包んである。甘やかな香り、しっかりした餅皮、さっぱりした甘さの漉餡が口の中で和み合う。
「桜葉は香り付けと乾燥防止のためですので外してお召し上がりください」と店主夫人の山本祐子さん。通年で販売しているが、2月中旬~3月下旬は予約販売のみという。
関西は道明寺粉が桜餅の主流
江戸で始まった桜餅は、関西ではもち米を蒸して乾燥させ粗挽きした道明寺粉(「糒」ほしい」とも呼ぶ)で作られる。呼び名は糒を最初に作った尼さんがいた道明寺(大阪府藤井寺市)に由来する。
関西風桜餅の代表格は、京都・嵐山で桜餅専門店として通年販売する御菓子司 鶴屋 寿の「嵐山さ久ら餅」だ。道明寺粉を用いた白い桜餅で、つぶつぶの食感、きめ細かなこし餡、桜葉の香りと上品な甘さで評判。
女将の野村紀美代さんは「製造日を含めて消費期限は4日です。日がたったら1、2分蒸すか、葉を付けたまま油で揚げていただければ」と言う。
文/中尾隆之
住所:東京都墨田区向島5-1-14
TEL:03-3622-3266
御菓子司 鶴屋 寿
住所:京都府京都市右京区嵯峨野天龍寺車道町30-6
TEL:075-862-0860
(出典:「旅行読売」2023年4月号)
(WEB掲載:2023年3月4日)