【旅する喫茶店】倉敷珈琲館(倉敷)
店内の梁( はり)には「DOINGNOTHING IS DOING ALL(何もしないことは全てをすること)」と刻まれている。店はコーヒーを楽しむ場所としてある
欧風のエスプリ漂うコーヒー専門店
倉敷珈琲(コーヒー)館は、白壁の蔵屋敷が並ぶ倉敷美観地区、その中央を流れる倉敷川沿いの隠れ家的な場所にある。大阪の伝説的なコーヒー職人、故・襟立(えりたて)博保氏に師事した女性創業者が1971年に始めたそうだ。
入り口の扉を開くと、ふくいくとしたコーヒーの香りとともに、欧風の落ち着いた空間が広がる。この建物は倉敷市庁舎など市内の有名建築の数々を手掛けた浦辺鎮太郎(うらべしずたろう)氏によるもの。レンガ壁はフランス式に組まれ、奥には中庭のテラス席もある。
コーヒーは厳選豆を一粒一粒選(え)り分け、襟立氏考案の赤外線付き焙煎機(ばいせんき)で芯までふっくらと深煎(ふかい)りに。ネルドリップまたは水出しで丁寧に抽出された濃密な味わいが特長だ。店長の松尾直毅さんは「自然の中で生まれたコーヒー豆は、生命そのもの。自らの味が存分に抽出されることを待ち望んでいます。その生命を最大限に歌わせてあげるためには、焙煎する者と抽出する者が、豆と張り詰めた関係にあり、自らも良い歌を歌わなければなりません」と語る。創業者の技術だけでなく哲学をも受け継ぐ。
名物は、味わい深い水出しコーヒーにリキュールやハチミツなどを加え、仕上げに濃厚なクリームをのせた「琥珀(こはく)の女王」。デミタスカップにリッチな甘みと芳香が凝縮し、上質なスイーツのよう。飲むほどに街歩きで疲れた体が癒やされていった。
文・写真/児島奈美
倉敷珈琲館
住所:岡山県倉敷市本町4‒1
交通:山陽線・伯備線倉敷駅、または水島臨海鉄道倉敷市駅から徒歩15 分
営業:10時~ L.O.17 時/無休
TEL:086-424-5516
※掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2023年4月号)
(Web掲載:2022年4月7日)