【私だけのひとり旅】倉敷で世界の名画と街歩きを満喫する(1)
日本建築の伝統的な白壁やなまこ壁の蔵と町家が並ぶ倉敷美観地区
和洋が織り成す美しい昔町をそぞろ歩く
私は学生時代に倉敷に住んでいた。「大原美術館」には当時も足を運んだことがあるが、日曜に開催しているモーニングツアーの評判を聞き、今度は倉敷美観地区へひとりで旅に出ることにした。
倉敷美観地区は倉敷駅から南東へ徒歩15分ほど。江戸時代に天領(幕府直轄領)として栄えた昔町で、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。柳並木の枝が風に揺れる倉敷川沿いには、 白壁やなまこ壁の蔵や町家が並ぶ。大正・昭和初期に建てられたレトロな建物が点在し、日本の伝統美と調和しているのも魅力だろう。
西洋建築の代表格といえば、昭和初期に設立された大原美術館だ。倉敷の社会・文化発展に貢献した実業家の大原孫三郎(まごさぶろう)が創設し、友人の洋画家・児島虎次郎(とらじろう)に託して欧州で選りすぐったエル・グレコ、モネ、ゴーギャン、マティスら巨匠の作品を展示・収蔵している。孫三郎の後を引き継いだ息子・總一郎(そういちろう)が収集したピカソやユトリロらの名画も鑑賞できる。山本周五郎賞を受賞した原田マハの小説『楽園のカンヴァス』に登場した美術館としても知られる。
モーニングツアーは8時から始まった。古代ギリシャ・ローマ神殿風の柱が立つ本館入り口から進むと、初めに虎次郎の「和服を着たベルギーの少女」が目に入る。学芸統括の柳沢秀行さんから、「何を描いているか」と「いかに描いているか」が鑑賞のコツと聞く。背景の棚に西洋と東洋の小物が描かれていて、異なる価値観が交わることを意識した虎次郎と孫三郎の思いまで透けて見えた。和洋が融合する美観地区の町並みを思い出し、ハッとした。また、多彩な筆運びを使い分けて少女を描いているところに虎次郎の画家としての創意工夫や挑戦が表れていると知り、少女がより生き生きと輝いて見えた。
ほかにも柳沢さんには、モネの「睡蓮」の小さな絵から感じる風景の広がりや、エル・グレコの「受胎告知」の画期的な手法など、絵画の多角的な見方を教えてもらった。以前訪れた時にも見たことがあった絵から新たな感動を受け取ることができた。
文/児島奈美 写真/宮川 透
【私だけのひとり旅】倉敷で世界の名画と街歩きを満喫する(2)へ続く
倉敷 立ち寄りたい施設
大原孫三郎が1930年に設立した日本初の西洋美術中心の私立美術館。約3000件の美術品を収蔵。世界の珠玉の名画に出合える。モーニングツアーは3000円で5日前までに要予約。2人から催行。
■9時~16時30分(12月~2月は~14時30分)/月曜、冬期休(祝日、7月下旬~8月、10月は開館)/山陽線倉敷駅から徒歩15分/2000円/☎086・422・0005
※掲載時のデータです。
江戸時代から繰り綿の仲買を営み、倉敷紡績などを設立した大原家の旧住宅で、大原家8代の功績を学ぶ。7代目の孫三郎をはじめ、倉敷の文化発展や美観地区の保存に寄与した歩みを紹介する。母屋、離れ座敷、蔵の10棟は国の重要文化財。
■9時~16時30分/月曜、年末年始休(祝日、振替休日は開館)/山陽線倉敷駅から徒歩15分/500円/☎086・434・6277
※掲載時のデータです。