【バリアフリーの温泉宿】設備もサービスも進化を続ける宿4選
「雨情の湯 森秋旅館」の貸切露天風呂
より多くの人に「旅」を!
近年は、設備のみならず心理的な障壁をなくす「心のバリアフリー」が求められている。未来の「バリアフリーの旅」を象徴するような、サービス、ソフト面が充実した4軒を紹介する。
群馬・伊香保温泉「雨情の湯 森秋旅館」
入浴介助や送迎サービスも
旅をトータルに応援するサービスを提供している。旅行付き添いケアサービス「お湯ピタリティー」では、介護事業者などと提携し入浴や食事、トイレ、観光、送迎などの介助を行う(有料)。
入浴は、介護福祉士などの有資格者が体の状態から適した浴室を選び、貸切露天風呂や大浴場で介助する。福祉車両はフルリクライニングの車イスも備え、看護師が付き添っての観光や移動も可能だ。
渋川市伊香保町伊香保60
TEL:0279-72-2601/ FAX:0279-72-5555
温泉付きバリアフリー客室「峰月」は1室2人利用の場合、1人1泊2食2万2150円~。和室10畳は同1万3350円~
群馬・伊香保温泉「ホテル松本楼」
全社員で手話などの研修を
ホテル松本楼も、古くからバリアフリー化を推進してきた。
「誰一人取り残さず、やさしく迎え入れる宿でありたい」という若女将・松本由起さんの思いから、まず1991年に「食のバリアフリー化」に取り組む。刻み食やミキサー食、4段階の離乳食を提供するほか、今は動物由来の食材を摂取しないヴィーガン食への対応も進めている。
2012年から新入社員研修にバリアフリー講座を取り入れ、コロナ禍での休業中も
全社員で手話や、障がい者自身が進行役となって組織づくりを考えていく「DET研修(障がい平等研修)」を受講。それらの活動が評価され、21年には観光庁の「観光施設における心のバリアフリー認定制度」の第1弾での認定を受けている。
渋川市伊香保町伊香保164
TEL:0279-72-3306/ FAX:0279-72-5620
バリアフリースイート「姫松」「君松」は1室2人の場合、1泊2食1人平日3万3150円~。和室10畳は同1万7150円~
三重・鳥羽市「鳥羽シーサイドホテル」
スポーツの普及にひと役
障がい者も一緒になって楽しむスポーツの普及に貢献している宿もある。鳥羽シーサイドホテルでは、視覚障がい者用スポーツ「サウンドテーブルテニス」を基に考案されたという「SS(エスエス)ピンポン」専用台を設置した。
「SSピンポン」は、卓球台の上で音の出るボールを転がして打ち合うので、障がいの有無や年齢を問わず、多くの人が一緒にプレーできる。三重県発祥のスポーツだ。
「利用したみなさまに喜んでいただいており、三重から全国へ広まっていくことを期待しています」と、取締役の前田浩さん。宿泊客以外でも利用できる。
鳥羽市安楽島町1084
TEL:0599-25-5151/ FAX:0599-25-6552
バリアフリー対応の露天風呂付客室は1室2人利用の場合、1人1泊2食2万7100円~。和室10畳は同1万7200円~
島根・松江しんじ湖温泉「なにわ一水」
文化体験も積極的に支援
障がいを持つ宿泊客にとってサービスやソフト面など、心のバリアフリーがいかに重要かというエピソードを聞いたのは、「なにわ一水(いっすい)」でのことだ。
この宿は2016年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰において内閣府特命担当大臣表彰優良賞を受賞。現在7室あるユニバーサルルームなど設備も充実しているが、受賞の決め手はスタッフの対応だったという。
「受賞後に聞いたのですが審査には現地調査があり、当館には聴覚に障がいのある審査員が来館されました。その際、フロントスタッフがさっと筆談機を取り出し、スムーズにコミュニケーションがとれたことも高く評価してくださったとのことでした」と、社長の勝谷有史さんは話す。
「なにわ一水」では、文化や情報のバリアもなくしたいと、視覚障がい者が触って楽しめる組子細工や、音声ガイド、点字表記もある「触(しょく)知図」などを用意している。聴覚障がい者へ情報を伝えるファックスやフラッシュライトなども貸し出す。
また、「障がい者を理解し一緒に暮らしやすい社会を作っていく」という鳥取県発祥の「あいサポート運動」の研修を社員全員が受けている。日々の取り組みが思いとなり、審査員に伝わったのだろう。
松江市千鳥町63
TEL:0852-21-4132/ FAX:0852-21-4162
UDルーム「水の6」1室2人利用の場合、1人1泊2食4万2000円~。和室8畳は同1万9000円~など
文/中元千恵子
※すべて掲載時のデータです
(出典:「旅行読売」2022年10月号)
(Web掲載:2023年8月9日)