【旅する喫茶店】カフェ エル・グレコ(倉敷)
大正ロマンを感じるレトロな雰囲気の店内。黒田氏はオリジナルより材質が良いテーブルを見て、「こちらのほうが上等だ」とほほ笑んだそう
倉敷・大原美術館の隣の洋館カフェ
倉敷美観地区にある大原美術館は日本初の私立西洋美術館として知られる。その隣に立つ「カフェ エル・グレコ」は、美術館の創設者、大原孫三郎の息子の總一郎(そういちろう)から「絵の余韻を楽しめるように」と提案を受け、大原家の茶席や花の装飾を担当していた茶人の佐々木浦江さんが1959年に開業した。「母の美的センスが見込まれました」と、娘で2代目店主の長沼眞智子(まちこ)さんは語る。
瀟洒(しょうしゃ)な建物は美術館本館を手掛けた建築家の薬師寺主計(かずえ)が、大原家の事務所として設計した大正末期の洋館を改装した。店名の「エル・グレコ」は美術館の代表的な収蔵作品「受胎告知(じゅたいこくち)」の作者にちなんでいる。
赤色のひさしのある白い扉を開けて店内に入ると、高い天井の開放的な空間に、ケヤキ製の端正な大テーブルが並び、目を引く。人間国宝の木漆工芸作家、黒田辰秋(たつあき)の作品を、本人の了承を得て複製したという。テーブルセンターは「倉敷民藝館」の本染手織(ほんぞめており)研究所に特注し、季節の花を飾る器は地元の陶芸家、武内晴二郎らの作品だ。芸術や民芸への関係者の敬愛の念が感じられた。
コーヒーは開業時から、岡山市の「後藤珈琲」が焙煎(ばいせん)した店専用のブレンド豆をネルドリップでいれる。ホットコーヒーはモカを中心に浅煎りでさわやかに仕上げている。美術館の鑑賞後に飲めば、さらに味わい深い1杯になることだろう。
文/児島奈美 写真/宮川 透
住所:岡山県倉敷市中央1-1-11
営業:10 時~ LO.16時40 分/ 月曜休(祝日の場合は営業)
交通:山陽線・伯備線倉敷駅から徒歩15 分
TEL:086-422-0297
※掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2023年12月号)
(Web掲載:2023年12月24日)