船で瀬戸内海の絶景めぐり(1)
島の数だけ絶景が待っている
瀬戸内海には、外周が100㍍以上の島だけでも727ある。最近は瀬戸内国際芸術祭で直島(なおしま)や豊島(てしま)などが知名度を上げ、ウサギ島として大久野島も人気だ。本州と四国を結ぶ橋も3ルートあり、多島海の景観にアクセントを添えている。そんな絶景を船上から眺めたくなった。
選んだ航路は、瀬戸内しまなみ海道沿いに点在する芸予諸島。村上海賊をストーリーに日本遺産に認定されたエリアだ。三原港(広島県)から因島(いんのしま)、大島に立ち寄って、今治港(愛媛県)へ向かう。高速船が運航していて、一日で気軽に巡れるのも魅力だ。
橋の裏側を眺める非日常の旬感
三原港を出航した土生(はぶ)商船の高速船は、後部に屋外デッキがあって気持ちがいい。佐木島の鷺港まで所要13分、因島北部にある重井港までさらに6分と、島と島は思っていた以上に近い。
地図を広げ、あれが宿弥(すくね)島か、これが岩子(いわし)島かと照らし合わせる。宿弥島は椀を伏せたようで、ここで新藤兼人監督の映画「裸の島」が撮影されたが、ともすれば見逃してしまいそうな小島だ。
重井港を出ると、因島と生口(いくち)島を結ぶ生口橋が迫る。橋長790㍍、1991年の完成当時は世界最長の斜張橋として注目された。その下を高速船が通る。あっという間だが、橋の裏側を見られ、わずかばかり感動を覚えた。
海に浮かぶような山並みの絶景
重井港から20分弱、因島南部にある土生港で船を下りた。文豪・井伏鱒二の短編「因ノ島」で、警察署長と老医師がこの桟橋でやり取りする場面を思い出した。
家々がひしめく坂を上がるにつれて、眼下に海が開ける。標高207㍍の天狗山一帯が因島公園で、20分ほど歩いた第二公園から無数の島々を見渡せた。折り重なるような島々は意外に急峻で、ひと続きの山並みのように映る。
名物“いんおこ”って何!?
因島といえば、うどん入りお好み焼き「いんおこ」が名物。日本遺産認定を機に、「因島村上海賊焼き」も誕生した。うどん入りお好み焼きで、タコを含めた2種以上の海産物を使い、村上海賊の幟(のぼり)をイメージした赤い旗を立てるのが決まり。店により味はさまざま。港に近い食事処「お好み焼うえだ」の暖簾(のれん)をくぐった。
「うちの具材はタコとイカ。味付けはソースかしょうゆ、どちらにします?」と、店員さんの応対は気さく。手際良い姿をカウンター席から見ていると、焼いた生地にうどんを載せてその後から野菜を盛っていた。
文/松田秀雄
<施設データ>
お好み焼うえだ ☎0845・22・4407
(出典 「旅行読売」2019年6月号)
(ウェブ掲載 2019年10月1日)