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【新・日本の絶景】相模湾を望む文化施設 小田原文化財団 江之浦測候所

場所
> 小田原市
【新・日本の絶景】相模湾を望む文化施設 小田原文化財団 江之浦測候所

「冬至光遥拝隧道」の上からは相模湾が見渡せる

 

相模湾を一望する丘陵地で天空の移ろいを体感する

小田原にある「江之浦測候所」と聞いた瞬間、気象庁の施設?と思った。富士山頂の測候所のように頑丈な建物がポツンと立つ光景が頭に浮かんだのだ。

ところが、実際は大違い。東海道線根府川(ねぶかわ)駅から無料送迎バス(予約制)で着いた先は、相模湾を望む丘陵地にギャラリー棟や野外の舞台、茶室などを配した文化施設だった。世界的な写真家で現代美術作家の杉本博司さんが構想から20年の歳月を費やし、2017年に開所。敷地全体の設計も杉本さんが自ら行った。

なぜ〝測候所〟なのか? それは施設を見ると分かる。例えば、大谷石(おおやいし)とガラス板で構成された「夏至光遥拝(ようはい)100メートルギャラリー」。建物の中心線を東へ延ばすと、縄文期のストーンサークルのごとく、夏至の日に水平線から昇る太陽の位置に合致するという。

同様に「円形石舞台」と「冬至光遥拝隧道(ずいどう)」の中心線は冬至の日の出に、「石舞台」の橋掛りの軸線と「茶室 雨聴天(うちょうてん)」の入り口は春分・秋分の日の出に位置を合わせている。

「夏至光遥拝100メートルギャラリー」を構成する大谷石の壁。表面は加工をせず、石切り場 で切り出された時のままにしてある
「冬至光遥拝隧道」内にある光井戸。井戸枠には光学ガラス片が敷き詰めてある

「設立者の杉本は、天空の下、自分のいる場を確認することはアートの起源であると語っています。古代人は太陽がどこから昇るかなど、天空を測候しながら、〝意識〟を身に付け、文明を築いたわけです。現代人にもアートの起源に立ち返ってもらいたくて、測候所と名付けたそうです」

同施設のディレクター・稲益(いなます)智恵子さんの説明を聞くと、これ以上なくふさわしい施設名に思えた。

能舞台を模した石舞台。奥にある古代ローマの円形劇場のような客席の凹みから春分、秋分の日が昇る
約1万坪の敷地に隣接する畑では20種のミカンを無農薬で栽培

パンフレットを手に、園内をゆっくりと巡る。室町期に建てられた鎌倉の古刹(こさつ)・明月院の正門、千利休作と伝わる茶室待庵(たいあん)を写した茶室、惜しまれつつも01年に廃業した箱根の名旅館「奈良屋」の門といった建築物はもちろん、すっかり周囲の景観に溶け込んだ巨石や石塔も見どころだ。巨石には飛鳥期の法隆寺若草伽藍(がらん)礎石、石塔には鎌倉期の内山永久寺十三重塔などがある。

見学は午前と午後の2部制で、完全入れ替え制のため、人混みが少ないこともよい。

訪問日は偶然にも年7回ほど開かれる「満月の会」に重なった。古代ローマの円形劇場を模した観客席から、ガラス舞台越しに相模湾の夕空を眺めることしばし。真ん丸の月がゆるゆると姿を見せた。

文・写真/内田 晃

「満月の会」で。開始時間は月の出る時間に合わせて変更される

小田原文化財団 江之浦測候所

ベストシーズン:通年
営業:10時〜13時(午前の部)、13時30分〜16時30分(午後の部)、17時〜19時(夕景の部、8月の土・日・月曜限定)/火・水曜、年末年始休/午前・午後の部はインターネット申込3300円、当日券3850円。夕景の部はインターネット申込2200円、当日券2750円。※それぞれ事前予約制。当日券は9時から受付で、電話連絡が必要
交通:東海道線根府川駅から無料送迎バス10分/小田原厚木道路小田原西ICから県道740号、国道135号経由9キロ
問い合わせ:TEL0465-42-9170
※料金等すべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2024年2月号)
(Web掲載:2024年1月30日)

 


Writer

内田晃 さん

東京都足立区出身。自転車での日本一周を機に旅行記者を志す。四国八十八ヵ所などの巡礼道、街道、路地など、歩き取材を得意とする。著書に『40代からの街道歩き《日光街道編》』『40代からの街道歩き《鎌倉街道編》』(ともに創英社/三省堂書店)がある。日本旅行記者クラブ会員

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