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【新・日本の絶景】湿地帯に集う1万羽超のツル。空を埋め尽くす飛翔に圧倒

場所
> 出水市
【新・日本の絶景】湿地帯に集う1万羽超のツル。空を埋め尽くす飛翔に圧倒

数千羽のツルが一斉に飛び立ち空を覆う様に圧倒される

 

ラムサール条約湿地に登録される「出水ツルの越冬地」

鹿児島県の北西端、出水市では晩秋を迎え、幾多の甲高い「クーッ」という鳴き声が響き渡ると、「今年もツルの季節が来た」と人々は冬の到来を感じるという。

江戸時代には全国各地に相当数のツルが渡来していたと言われているが、環境の変化とともに飛来地は少なくなった。出水市では三つの河川が八代(やつしろ)海に流れ込む扇状地の干拓農地478ヘクタールが、日本最大の越冬地になっている。

干拓地の貯水池に集まるツル。エサをついばむ姿や水浴びする様子も見られる

「出水ツルの越冬地」は2021年に水鳥の生息地として国際的に重要なラムサール条約湿地に登録され、翌年にはこうした取り組みが評価されて、出水市が日本で初めてラムサール条約の湿地自治体認証を得た。

2023年も11月25日に1万1856羽のツルが確認された。この時点では9割以上がナベヅルだが、そのほかマナヅル、クロヅル、カナダヅルなど、これまで世界に生息する15種のツルのうち7種と1雑種が渡来している。ナベヅルは世界の生息数の約9割が出水で越冬するという。

(左上)クロヅル/体全体は淡灰褐色だが喉から頸部前面は黒い。ナベヅルより大きい。(左下)ナベヅル/ 鍋底に付いたススのように黒っぽいのでこの名がある。約9割を占める。(右上)カナダヅル/頭頂部の赤色が特徴。世界で最も生息数の多いツルだが、日本に渡来するのは数羽。(右下)マナヅル/羽を広げた大きさは約2.1メートル、体重は5キロ〜7キロ。写真は求愛行動の様子


「ツルの大きさに驚かれる観光客も多いです」と出水市商工観光課の三角(みすみ)大地さんは言う。ナベヅルは翼を広げると1.5メートル〜1.8メートルにもなり、数千羽のツルが一斉に飛び立つ瞬間の大迫力、その大群が空を覆う圧倒的なスケールには息をのむばかりだ。

出水市ツル観察センターでは、ガラス張りの展望室からツルを観察できる。さらに約1キロ離れた海沿いにはトレーラーハウスのツル観察ハイド(野鳥観察舎)があり、より間近にツルの存在を感じることができる。

「ツル観察センター北側がツルのねぐらになっていて、夕方になるとツルが集まって来ます」と三角さん。毎朝7時にはツル保護会のメンバーらがエサ撒(ま)きをするそうで、大盛況のその光景も見てみたい。

ツル観察センター2階の展望室。12月~2月の土・日曜は小・中学生による解説も
まずはツル観察センターで受け付けをする。双眼鏡の貸し出しもある

出水市では2023年11月1日〜2024年3月10日までを越冬地利用調整実施期間と定めており、「見学者はまず、ツル観察センターでレクチャーを受ける」、「車両は鳥インフルエンザ防疫のため消毒し、干拓農地内の指定された道だけ通行できる」などのルールを設けている。

さらに住民によるねぐらの整備といった取り組みのほか、地元農家だけでなく県内外からツルのエサにと米の寄付があるという。ツルの絶景はこうして守られている。

文/田辺英彦

ツルの家族はつがいの2羽か子連れの4羽で行動することが多いという。つがいは死ぬまで添い遂げるそうだ

日本一のツルの越冬地
ベストシーズン:11月中旬〜翌年月下旬
営業:2023年11月1日〜2024年3月10日の6時30分〜16時30分(1月6・7日は9時まで利用調整エリア立ち入り不可)/期間中無休/乗用車1台につき1000円(ツル観察センターのみの場合は220円)
交通:九州新幹線出水駅からバス45分、ツル観察センター入口下車すぐ。またはタクシー20分/出水阿久根道路野田ICから県道368号経由4キロ
問い合わせ:出水市ラムサール推進室/TEL0996-63-8915

※料金等すべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2024年2月号)
(Web掲載:2024年2月11日)


Writer

田辺英彦 さん

東京都大田区出身、埼玉県在住。旅行ガイドブック編集・執筆、出版業界誌執筆などを経てフリーランスに。東北・八幡平の温泉群と、低山ハイク、壊れかけたもの・廃れたものが好き。

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