【強く美しい 日本刀に導かれ】いつかは 見たいこの一振 山鳥毛<国宝>
身幅が広くて腰反りが高い、堂々とした刀身、切先(きっさき)はイノシシの首のように短く詰まっていることから猪首(いくび)切先と呼ばれる<写真/瀬戸内市)
備前刀の最高傑作「山鳥毛」、その鑑賞ポイントを解説
旅行読売2024年3月号の特集では「百聞は一見に如かず」にならい、この春に実際に見られる日本刀を紹介したが、いつか見たい名刀は日本各地にあまたある。そのうちの一つが、備前刀の最高峰とされる国宝「山鳥毛」だ。
この刀は、岡山県瀬戸内市が2020年にかつての所有者から取得した。購入金額は5億円。費用は「山鳥毛 里帰りプロジェクト」と題したクラウドファンディングで調達された。そんな山鳥毛の鑑賞のポイントを、瀬戸内市の備前長船(おさふね)刀剣博物館主査(学芸員)の杉原賢治さんの解説を交えながら紹介しよう。
山鳥毛は、上杉謙信とその息子の景勝が愛蔵し、米沢上杉家に代々受け継がれてきた刀剣。華やかな刃文(はもん)を特徴とする福岡一文字派の刀工により、鎌倉時代中期に作られたとされている。杉原さんは、「福岡一文字派の作品の中でも、刃文の焼き幅が高い(広い)ことが特徴」と言う。焼き幅が高すぎると刀が折れやすくなってしまう。そのギリギリの高さに収められた華麗な刃文に注目したい。そもそも山鳥毛の名は、変化に富んだ刃文が「山鳥の羽毛のようである」ことに由来。また、「山野が燃えるようだ」とも言われている。武将の激しい情熱や熱い野望を映したような、躍動感あふれる刃文に目を奪われる。
そして「姿」。杉原さんは「おそらく作刀された当時のままに近い姿で現在に至っているのでしょう」と推測する。刀は管理が悪く錆が出ると研ぐ必要があるが、研ぐと刃は薄くなり、何回も行うと、極端に言えば「ペラペラ」になってしまう。「この刀がいかに大切に扱われてきたかを想像してみてください」と杉原さん。
瀬戸内市長船町を中心とした地域は、圧倒的な日本刀生産量を誇り、国宝級の名刀を多く生み出してきた。そんな「日本刀の聖地」に戻った山鳥毛は、どんな輝きを放っているのか。いつか見たい一振である。
文/渡辺貴由
備前おさふね刀剣の里 備前長船刀剣博物館
備前刀を中心に展示する刀剣専門の博物館。常時約40振を展示公開。テーマ展は2月4日までが「新収蔵品展」、2月10日~4月21日は「鐔(つば)の世界」。第2日曜には古式の方法で玉鋼(たまはがね)を鍛錬する古式鍛錬を公開している(要予約)。山鳥毛は年に1回程度公開されるが、今年のスケジュールは未定。
開館:9時~16時30分/月曜(祝日の場合は翌日)休、展示替え期間休¥500円(展示企画内容により変動の場合あり)
交通:赤穂線長船駅からクシー7分
住所:岡山県瀬戸内市長船町長船966
問い合わせ:TEL0869-66-7767
※料金等すべて掲載時のデータです。
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(出典:「旅行読売」2024年3月号)
(Web掲載:2024年1月30日)