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【ひとり、秘湯へ】ぬる湯と山の緑に浸り 疲れた目を静める休日 貝掛温泉(1)

場所
  • 国内
  • > 北陸・中部・信越
  • > 新潟県
> 湯沢町
【ひとり、秘湯へ】ぬる湯と山の緑に浸り 疲れた目を静める休日 貝掛温泉(1)

源泉が自噴する岩の直下にある露天風呂。「木々や山の緑に囲まれた露天風呂は、自然と一体化しているような開放感がありました」と田畑さん(撮影のため許可を得てタオルを巻いて入浴)

〝行きやすい秘湯〟古民家風の一軒宿「貝掛温泉」

〝行きやすい秘湯〟があるなら、貝掛温泉は間違いなくそれに当たる。苗場山の中腹、山深い三国街道沿いの国道を逸(そ)れ、清津川に架かる長い橋を渡ると、どん詰まりに古民家風の一軒宿が立っている。ため池に錦鯉が泳ぎ、小川に水車が回り、山並みを背にトンボが飛び交うロケーションは、確かに秘湯感がある。にもかかわらず、越後湯沢駅から車で20分ほど、東京駅を起点にしても2時間足らずと近い。川端康成が『雪国』で旅した頃の異郷の面影を残しながら、交通事情は大きく変わった。越後町の山あいに立つ貝掛温泉を「たびよみリポーター」の田畑英河さんとともに訪れた。

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標高約700メートルの山あいに立つ。紅葉に染まる秋の風景。見頃は10月中旬〜11月上旬(写真/貝掛温泉)

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入り口に提灯が掛かる玄関棟

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チェックインは14時以降。受付で館内の施設や周辺の散策路について丁寧に案内してくれる支配人の大橋さん。リポーターの田畑さんは「宿の近くに池や滝があって、外を散歩できるのが良いですね」

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「貝掛」の字を意匠化したのれん

貝掛温泉はその歴史から「目の温泉」をうたっている。「江戸の庶民が湯治のために街道を51里歩いてきたという記録や、目を洗うために関所を通りたいと嘆願した書状が残っています」と5代目主人の長谷川智丈さん。「明治時代には内務省の許可を得て『快眼水』の名で温泉水を使った目薬を販売していたそうです」

湯小屋で覆われた岩の間から自噴する35~37度の源泉の湧出量は、毎分400~700リットル(季節により変動)と豊富で、手を加えずに湯船に注いでいる(一部、加温あり)。メタホウ酸約20ミリグラム/キロを含む源泉成分が洗眼薬や昔の目薬のそれに似ていること、また低温・低刺激ということもあり、目の療養に訪れる人が歴史的に多かったという。

「スマホを長時間眺めてドライアイ気味なので、自然豊かな環境は、目を休めるのに良いですね」(田畑さん)

FTN_1961.jpg広々とした岩造りの露天風呂。源泉地のそばにあり湯量豊富

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源泉浴槽の湯口で目を洗う人や、ペットボトルで湯を持ち帰る人もいる

FTN_3018.jpg今回ひとり泊で泊まった10畳和室

長谷川さんが引き継いだ20年ほど前からは、湯治宿の雰囲気を残しながらも、古材を利用しつつ建物を新築したり、部屋数を減らして一部屋を大きくしたり、現代的なニーズに合うようにリニューアルしてきた。例えば、全室に温水洗浄便座のトイレが付いている。

田畑さんは「山奥の秘湯なのに、部屋は清潔で何の不安もありませんでした。それでいて窓の外を見ると自然豊かで、古民家風の建物が見えて、昔の日本にタイムスリップしたようです」と話す。

建物は新旧2棟と離れがある。平成初期築の玄関棟を入って奥の渡り廊下を進むと、明治初期築の本館につながっている。最奥にある湯殿に向かう途中、ロビーに置かれた米俵や藁(わら)長靴、渡り廊下に稲架掛(はさが)けにされた稲、展示されている湯治宿時代の白黒写真、眼球を描いた昔の絵図などに目を引かれた。

文/福﨑圭介 写真/齋藤雄輝 ヘアメイク/依田陽子

【ひとり、秘湯へ】ぬる湯と山の緑に浸り 疲れた目を静める休日 貝掛温泉(2)へ続く

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古箪笥の上に黒電話や藁長靴などの古道具、雪国らしい品が飾られていた

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米俵が置かれたロビー

FTN_3097.jpg「日本建築の建物は、風通しが良く涼しいですね」と田畑さん

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廊下に展示されていた眼球の絵図


貝掛温泉
TEL:025-788-9911
住所:湯沢町三俣686

ひとり泊データ
条件:繁忙期を除く
客室:トイレあり10~12畳和室(全21室)
食事:夕・朝食=食事処

料金(税込)
素泊まり:平日-/休前日-
1泊朝食:平日-/休前日-
1泊2食:平日2万5300円~/休前日2万7500円~
※2人1室利用の場合は1泊2食1万9800円~

泉質:ナトリウム・カルシウムー塩化物泉
日帰り入浴:11時~14時/無休/1200円
交通:上越新幹線越後湯沢駅からバス22分、貝掛温泉下車徒歩15分(送迎は要予約)/関越道湯沢ICから12キロ

※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:旅行読売2025年11月号)
(Web掲載:2025年10月10日)


Writer

福崎圭介 さん

新潟県生まれ。広告制作や書籍編集などを経て月刊「旅行読売」編集部へ。編集部では、連載「旅する喫茶店」「駅舎のある風景」などを担当。旅先で喫茶店をチェックする習性があり、泊まりは湯治場風情の残る源泉かけ流しの温泉宿が好み。最近はリノベーションや地域再生に興味がある。趣味は映画・海外ドラマ鑑賞。

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