すっぽん料理と足元湧出の名湯 郷緑温泉 郷緑館(1)
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明治前期に建てられた郷緑館。立派な石垣は当時の村人たちの協力で積み上げられたという
城のような堂々とした石垣の上に立つ秘湯の宿
真庭市内から山あいの道を進み、湯原温泉との分岐を左へ行くと、城のように立派な石垣の上に佇む明治初期の建物が姿を現す。郷緑(ごうろく)温泉の一軒宿、郷緑館だ。源泉が湧き出る岩盤の割れ目の上に湯船を設けた「足元湧出」が自慢の湯宿。湯船は、大人4~5人でいっぱいになる小ぶりな造りだが、底からぷくぷくと気泡が立ちのぼる。源泉の温度は35度。絶妙なぬるさで、長く浸かるほどに体の芯がじんわりと温まっていく。

1日1組(2~6名)限定で宿泊を受け付けており、もう一つの名物が、夕食に並ぶすっぽん料理だ。このすっぽんは、宿主の張真(はりま)務さんが宿の真下にある養殖池で育てている。毎分330リットル湧き出す豊富な源泉は、湯船に入れる以外はすべて養殖池へ注がれているのだ。
温泉のかけ流しにより、水は常に新鮮で、温度は約25度に保たれる。そのため、すっぽんは冬眠せず1年を通して成長を続け、通常よりも早く大きく育つという。張真さんは82歳の今も腰まで池に浸かり、網を巧みに操って泥の中から次々とすっぽんをすくい上げる。


すっぽんの調理もすべて張真さんが自ら腕をふるう。「食べてうまいものをこさえているだけ」と語るように、料理はすべて我流。温泉のかけ流しで育ったすっぽんは臭みがなく、遠方から20年以上通い続ける常連客も少なくないという。



すっぽん料理は多彩で、むね肉の刺身、腕やもも肉の唐揚げ、レバーや腸などのホルモン、酢の物、えんがわの辛子酢醤油など。メインは、すっぽんのガラで出汁をとる鍋料理。締めは雑炊にし、最後のひと口まですっぽんのうま味を堪能できる。
文/前岡侑希 写真/中野一行
すっぽん料理と足元湧出の名湯 郷緑温泉 郷緑館(2)へ続く(9/26公開)
※記載内容は取材時のデータです。
(Web掲載:2025年9月25日)