【紅葉の秘湯】秋の夜長をランプが照らす 岐阜・ランプの宿 渡合温泉
林道が冬季閉鎖されるため、4月~11月の期間営業。6代続く家族経営の宿だ
その不便さが、現代人を引き付ける
その不便さが、現代人を引き付ける魅力なのだろう。岐阜県東部の付知(つけち)川源流部にたたずむ一軒宿・渡合(どあい)温泉。この秘境には電気もガスも水道も通っていない。携帯電話の電波も届かないから、スマートフォンも使えない。が、情報過多で忙(せわ)しない日常を離れられるせいか、近年は宿泊客が増えているという。
最寄りの中央道中津川ICからは車で約1時間。国道256号を走り、付知峡口から県道へ。付知峡は県内有数の紅葉名所で、エメラルドグリーンに輝く川面とナナカマドやミズナラ、ブナなどの紅葉が美しいコントラストを描く。県道を進むと林道入り口があり、ここから渡合温泉まで8.3キロ。道中では落差20メートルほどの高樽の滝も見られる。
かつては林業でにぎわう集落だったそうだが、現在は明治期創業の宿を残すのみ。標高850メートルの国有林の中に山小屋風の建物が立つ。
「周囲10キロに家はなく、静かな環境でゆったりとした時間を過ごせます」と宿主の今井俊博さん。全7室の小さな宿で、平日限定の全館貸切プランも好評とのこと。ロビーの天井にランプがずらりと吊(つ)り下がるさまは壮観で、6畳~8畳の和室には自家発電の裸電球が一つだけ。縁側に座れば、カエデやモミジの紅葉と付知川の瀬音に包まれるようだ。
チェックインを済ませたら、周辺に広がる秋色の森を散策しよう。自然の中で体を動かすと温泉につかる楽しみも増す。散策を終えて浴場に入ると湯船が二つあり、それぞれに温泉と山の湧き水が満ちている。ほのかに薪(まき)の香りが漂うのは、浴槽を下から沸かす五右衛門風呂式だから。宿の近くで自噴する冷鉱泉はpH8.1、源泉温度10.6度。ほどよく加温された湯とランプの明かりが心身を温めてくれる。
夕食ではイワナの塩焼きや山菜の天ぷらなど、山川の恵みを堪能できる。醤油(しょうゆ)だれにつけて香ばしく焼いた名物「わらじ五平餅」は、その大きさも味わいも心に残る逸品だ。宿主おすすめのイワナの骨酒(こつざけ)も試してみたい。夕食後はロビーでランプの使い方講習。客室の電球は22時に消灯となるので、そのあとはランプを囲んで家族や友人と語らうのもいいし、星空を見上げるのもいい。
翌日は付知峡で紅葉狩り。付知峡不動公園には遊歩道が整備されており、不動滝や観音滝が巡れるほか、食事処もある。秋の中津川を訪れた土産には、老舗菓子店の栗きんとんを選ぼう。
文/内山沙希子
立ち寄りたいお店
仁太郎(にたろう)
創業100年以上の老舗和菓子店。中津川が発祥の地と伝わる栗きんとんをはじめ、山里の四季を映した和菓子がそろう。栗きんとんを薄く焼いた「栗千年」は通年販売。秋は栗きんとんや「和栗モンブラン 里山」が人気。
■8時~18時/元日休/中央線中津川駅からバス56分、万賀下車すぐ/中央道中津川ICから32キロ/TEL0573-79-3501
🍁紅葉の見頃:10月下旬〜11月中旬
TEL090-1092-8588(衛星電話)
住所:中津川市加子母渡合
営業:4月〜11月
客室:全7室
温泉:ナトリウム―塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉
1泊2食料金(1人分):
2人1室利用 平日1万5000円~・休前日1万5000円~
1人1室利用 (土曜、繁忙期を除く)平日1万6100円~・休前日1万6100円~
日帰り入浴:8時~15時(要予約)/不定休/500円
交通:中央線中津川駅からバス50分、倉屋温泉下車タクシー30分(タクシーは要予約)/中央道中津川ICから40キロ
※料金などは掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2024年10月号)
(Web掲載:2024年12月19日)