【紅葉の秘湯】“塩泉”と地歌舞伎が伝わる秘境の村 鹿塩温泉 湯元 山塩館(1)
浴室の窓からは対岸の黄葉が眺められる。加温した湯船の隣には熱の伝導でぬる湯になった源泉の湯船もある。なお、現在の浴槽は石造りに変わっている
海水と同程度の塩分を含む山間地の〝塩泉〟
俳優・原田芳雄の遺作として記憶される、2011年公開の映画「大鹿村騒動記(おおしかむらそうどうき)」は、南信州に実在する大鹿村が舞台。秋の地歌舞伎公演までの数日間を描いていた。画面に映る色付いた山あいの集落は、堀辰雄の訪れた昭和初期の軽井沢並みに牧歌的な、紛れもない「美しい村」に見えた。大楠(おおくす)道代演じる認知症の妻が、「しょっぱい!」と今さらながらに驚いた温泉も気になる。紅葉の季節には早すぎるが、癒やしを求めて中央道を西へ向かった。
松川ICから松川市街を抜け、天竜川を渡り、支流の小渋(こしぶ)川に沿って車を走らせる。小渋峡の両岸も秋には色付き、紅葉を愛(め)でながらのドライブが楽しめる。
鹿塩川の支流、塩川沿いの高台に山塩館があった。敷地内の源泉は、海水と同程度の塩分を含んでいる。標高750メートルの山間地になぜ〝塩泉〟が湧くのか、今も解明されていない。大鹿村の地下を南北に貫く中央構造線は、約1億年前にできた断層で、壮大な地殻変動の歴史が関係しているのかもしれない。
宿に着いたら早速ひと風呂浴びる。浴室は横並びに2か所あり、男女交替で利用。どちらも山に面して窓が大きく取られ、色付く原生林を眺めながら湯あみができる。館主の平瀬定雄さんによると、ブナやコナラが多く、黄色からオレンジ色のグラデーションで染まる山肌に、常緑樹の緑とヤマモミジやナナカマドの赤が点々とアクセントになるという。「17時頃に入るのがおすすめです」と平瀬さん。日没直後の薄明が、紅葉をより幻想的に見せるそう。
湯は12度の源泉を加温している。塩分濃度が高いが、海水のように肌にべたつかない。保温性に優れ、湯冷めしないので、晩秋にはぴったりの温泉だ。
文/田辺英彦
【紅葉の秘湯】“塩泉”と地歌舞伎が伝わる秘境の村 鹿塩温泉 湯元 山塩館(2)へ続く(12/7公開)
大鹿村の絶景スポット👀
HAKKO OOSHIKA(ハッコー オオシカ)
山塩館から林道を車で30分ほど上った標高1500メートルの大池高原に、2022年にオープンした絶景カフェ。テラスデッキからは伊那山地や中央アルプスの山々を一望できる。元パティシエの松澤莉央さんが作る、地元食材と大鹿みそや塩麹などの発酵調味料を組み合わせた料理、スイーツが味わえる。バターチキンHAKKOカレーのセット1950円(写真)。
■11時〜14時30分/不定休、11月〜4月休/飯田線伊那大島駅からタクシー1時間5分/中央道松川ICから32キロ/TEL050-8883-8368
🍁紅葉の見頃:10月中旬〜11月中旬
TEL:0265-39-1010
住所:大鹿村鹿塩631-2
客室:全10室
温泉:ナトリウム―塩化物強塩冷鉱泉
1泊2食料金(1人分):
2人1室利用 平日1万8850円~・休前日2万500円〜
1人1室利用(繁忙期を除く)平日2万1050円〜・休前日2万2700円〜
日帰り入浴:不可
交通:飯田線伊那大島駅からバス32分、鹿塩下車徒歩10分(送迎あり、要予約)。バスタ新宿から高速バス3時間45分の松川インター下車、バスに乗り換え45分の鹿塩下車、以下同じ/中央道松川ICから21キロ
※料金などは掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2024年10月号)
(Web掲載:2024年12月6日)