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故郷に新幹線がやって来る 北陸新幹線(敦賀―金沢駅)試乗ルポ【新幹線で春は北陸へ】

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  • 国内
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> 敦賀市
故郷に新幹線がやって来る 北陸新幹線(敦賀―金沢駅)試乗ルポ【新幹線で春は北陸へ】

敦賀市の鳥「ユリカモメ」をモチーフにした大屋根が覆う新幹線ホーム

 

祖父が暮らしていた敦賀は、幼少期から幾度となく訪ねた街だ

1月31日、北陸新幹線試乗会に参加する私は、いつものように敦賀駅真正面の改札を入り、階段を上って、眼下の在来線ホームを眺めながら連絡通路を進んだ。祖父が暮らしていた敦賀は、幼少期から幾度となく訪ねた街だ。これまでと勝手が異なるのは、通路に「その先」が用意されていたこと。再び上り階段へと続き、新幹線駅舎2階乗り換えコンコースに至った。緩やかな弧を描いた天井には、案内板「新幹線のりかえ口」が延々とぶら下げられ、矢印の示す先には19もの乗り換え改札が整列している。3月16日の北陸新幹線開業後、関西・中京方面からの特急列車はすべて当駅止まりとなり、敦賀駅は一大乗り換え拠点となる。

3階の新幹線乗り場には、船の甲板をイメージした木目調タイルが敷雨雪に晒(さら)されがちな高湿度の在来線乗り場を思えば別天地だ。

1階を発着する特急列車とのスムーズな乗り換えができるよう整備新幹線最多となる19の乗り換え改札を用意
2階コンコースの天井は北前船の帆をイメージ

鉄道唱歌のチャイムを合図に、敦賀車両基地側からW7系が入線。10時13分、列車はホームを離れた。次の瞬間には市街と敦賀湾を窓の外に映し、間もなく〝新北陸トンネル〟へと入った。

いつも帰省の折には、東海道新幹線で米原へ、さらに特急しらさぎに乗り換え、故郷、福井に向かう私にとって、在来線最長の所要およそ7分の〝北陸トンネル〟は、みそぎのようなものだった。電波は届かず、外部とのやり取りを否応(いやおう)なく中断させるこの時間を経ることでふるさとに帰ってきたことを実感していた。

一方、並行して掘られたこの〝新北陸トンネル〟において、手元のスマホは外界と通じ続けた。レールの継ぎ目で横揺れすることもなく、なめらかに進む乗り物は、体になじんだ帰省の秩序からはかけ離れている。

トンネルを抜け、列車は田んぼの真ん中を疾走し、越前たけふ駅に到着。新幹線単独駅ながらも道の駅が併設され、旅の最後にグルメとお土産を楽しむことができる。ほかの5駅もしかり。駅ごとに新たな商業施設が設けられているのは延伸区間の大きな魅力だろう。

10時36分、福井駅に到着。敦賀駅が「整備新幹線最大の駅」であるのに対し、こちらは1面2線で完結する「新幹線最小の駅」。見送りに来る母と、お別れの挨拶を交わすスペースは確保できるだろうか。あまりにコンパクトだ。

延伸区間では、透明の防音壁が採用され、景色が楽しめるポイントも多い。試乗前に予習していた車窓見どころの一つに鉄道道路併用橋「新九頭竜(くずりゅう)橋」があった。すでに道路からの景色は確認済みで、「列車からはどう見えるのか」と期待を高めていたところ、感慨にふける間もなく過ぎた。事前学習に速度の違いは織り込まれていなかったのだ。「あっ、あそこ」「ほんとや!」と呼応できる悠長な間を新幹線は許してはくれない。

 防音壁の間から望む敦賀市内
車窓が新鮮
新幹線最小の駅・福井駅

新幹線から見下ろせば、健気でかわいく見えるサンダーバード

さらに未練を断ち切るかのような勢いで加賀温泉駅を通過。その速さに呆然(ぼうぜん)としていたときのこと。かなたの在来線上に、大阪からの特急サンダーバードが姿を見せた。福井で育った鉄道好きにとっては、永遠のスーパースター。けれども新幹線から見下ろせば、健気(けなげ)でかわいく見えてしまうのが寂しい。今までの感謝の気持ちを抱きつつ、こちらは一足先に金沢へ向かう。

続く小松駅も通過し、「まもなく金沢」のアナウンスとともに、列車は速度を落とし始めた。11時10分、金沢駅に到着。ホーム上で一般の新幹線利用客に溶け込み、現実世界に戻る。記憶も記録もまっさらな区間。驚きと興奮に少しの切なさを混ぜ込んだ気持ちこそ、期待の表れなのかもしれない。

文/蜂谷あす美
写真/宮川 透

一大乗り換え拠点となった敦賀駅

新幹線側コンコースで出番を待つ発車案内板
地上から約21メートルの高さに位置するホームからは敦賀湾も見渡せる
床は甲板風の木目調タイル。待合室、喫煙室は操舵室をイメージ

(出典:「旅行読売」2024年4月号)
(Web掲載:2024年3月19日)

※北陸新幹線を特集した旅行読売2024年4月号は、「こちら」の直販サイトからご購入いただけます。


Writer

蜂谷あす美 さん

福井県出身。高校時代の汽車通学時、鉄道の魅力に取りつかれ、鉄道雑誌をこっそり愛読し趣味を育むようになる。慶應義塾大学卒業後、出版社勤務を経て、旅の文筆家。2015年1月にJR全線完乗。鉄道と旅を中心としたエッセイ、紀行文などを数多く執筆。 著書『女性のための鉄道旅行入門』(天夢人)ほか。『鉄道ジャーナル』で「わたしの読書日記」、「福井新聞」で「乗り鉄・蜂谷のいつもリュックに時刻表」など連載多数。最近はラジオやトークイベントでも活躍。

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