打刃物のまちへ 越前打刃物(1)【日本刀に導かれ】
ベルトハンマーで鉄を鍛造する、加茂刃物製作所の澤田隆司さん(23)。刃物職人を目指して県外から移住。将来は自分の工房を持ちたいという
刀匠から受け継いだ700年の伝統を守る
打刃物とは、日本刀のように鍛冶の技術を用い、金属を鍛錬して造る日本伝統の刃物のこと。越前市の越前打刃物は、南北朝時代に京都の刀匠千代鶴国安(ちよづるくにやす)が、良質の水や材料がそろう刀づくりに適した地を求めて府中(現在の越前市)にたどり着いたことから始まる。国安は刀剣制作の傍ら、近隣の農民のために鎌を開発した。その技術は今も受け継がれ、市内には約20の刃物会社が残る。
中でもタケフナイフビレッジは、ショップに隣接して見学工房や資料館なども備え、外国人観光客も多く集まると聞き、訪ねてみた。
北陸線武生(たけふ)駅からタクシーで15分ほど。約1000平方メートルの広大な敷地に、斬新な外観の建物が立つ。
「刃物の特徴の一つが2枚重ねて鍛造する〝二枚広げ〟です。重ねることで熱の発散を防ぎ、むらなく丈夫で、薄く切れ味の持続する刃物ができるんです」
タケフナイフビレッジ協同組合事務局の東(ひがし)まどかさんはこう話す。
全国にその切れ味を広めたのは、越前漆器の漆をとる職人だという。彼らは越前鎌を採集に使っただけでなく、旅の資金調達のため鎌を売り、土地柄に合った注文もとってくるようになった。こうして越前市は打刃物の一大産地となったのだ。
ところが、1970年代に入ると、農業の機械化が進み鎌の需要は低下。大量生産の安価な型抜きの包丁が流通し、ステンレスの普及で錆(さ)びやすい鉄の刃物は嫌われた。越前打刃物は衰退の危機に直面する。
「なんとか打開できないかと、次期後継者だった若手職人たちが仕事のあとに集まり、技術改良などの勉強会を開いて、今後の展望を話し合うようになりました」(東さん)
そこで出会ったのが、福井県出身の世界的な工業デザイナー、川崎和男さんだ。川崎さんは〝本物〟であるにもかかわらず、市場では受け入れられていない状況を見て、インダストリアルデザインの概念を導入した新商品のデザインを提案した。職人たちは試行錯誤しながらも、〝火作り鍛造〟という伝統技術で、刃と柄が一体となったステンレス素材の新商品を開発。ブランド名を〝タケフナイフビレッジ〟とした。1983年のことだ。
越前たけふ周辺の見どころ
千代鶴神社
越前打刃物の開祖、千代鶴国安を祀(まつ)った神社。国安が作刀に適した地を求めてたどり着いた千代鶴の池のほとりに、1922年に建立された。国安は刀ができると、砥石
(といし)で狛犬を作って池に沈めたといわれ、実際に池から狛犬10個余りが見つかったという。現在は池に水はないが、跡地が残る。
■境内自由/北陸線武生駅から徒歩15分/TEL:0778-22-1241(越前打刃物産地協同組合連合会)
越前千代鶴の館
越前打刃物技術の後継者を育成し、技術を保存継承するとともに、その歴史や文化を発信するための見学施設。展示室では700年にも及ぶ越前打刃物の歴史や、各工房で製作している包丁を展示。不定期で伝統工芸士による鍛造実演や手研ぎ教室なども開催している。
■9時~17時/無料/火曜休、年末年始休/北陸線武生駅からタクシー15分・北陸新幹線越前たけふ駅からタクシー10分/TEL:0778-22-1241
文/高崎真規子
写真/宮川 透ほか
打刃物のまちへ 越前打刃物【日本刀に導かれ】(2)へ続く(3/11公開)
タケフナイフビレッジ
9時~17時/年末年始休/北陸線武生駅からバス20分、味真野神社前下車徒歩10分・北陸新幹線越前たけふ駅からタクシー10分/TEL:0778-27-7120
※料金などは掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2024年3月号)
(Web掲載:2024年3月10日)