打刃物のまちへ 越前打刃物【日本刀に導かれ】(2)
タケフナイフビレッジの資料館。越前打刃物の歴史や製作工程を展示
世界に羽ばたく越前ブランド
新ブランドは、同年、東京の展示会で反響を呼び、86年にはニューヨークの展示会でも大成功を収めた。越前打刃物が新しい形で、世界に向けて羽ばたき始めたわけだ。
1993年、この新ブランドの開発に携わった職人10人が、ブランドと同じ名前の共同工房を設立した。それがここ、タケフナイフビレッジである。メンバーの1人で初代理事長を務めた、加茂刃物製作所の加茂勝康さんは、こう振り返る。
「700年の歴史を自分たちの代で終わらせるわけにはいかない。その一心でした。どこも家内工業で、問屋の注文通りの製品を作るだけ。職人も井の中の蛙(かわず)でずっと同じものを作っていてはダメだと思いました。自分たちの刃物づくりをしようというハングリー精神を持ったメンバーが集まったんだと思います」
約3億円をかけて新たな活動拠点としての共同工房ができ上がった。補助金などないので、各自3000万円の借金を抱えたそうだ。
工房の作業風景は2階のスロープから見学できる。建物に入ると、いきなりトントントントンと鋼を打つベルトハンマー(上下から材料を叩た たく機械)の音が響く。
現在所属しているのは13社で総勢41人。そのうち14人が伝統工芸士の資格を持つ。各社の場所は決まっているが仕切りはなく、共同で使う機械もある。作る製品やこだわりは各社さまざまだが、ひとつ屋根の下で作業する環境は、若手の研さんの場としても最適だろう。刃物職人を志し、県外から集う若者も多いという。
越前市には、見学や体験のできる工房や、包丁選びの相談に乗ってくれる店など、打刃物ゆかりのスポットも多い。春には北陸新幹線の延伸でアクセスも向上。マイ包丁を求めて「打刃物のまち」を巡るのもいい。
越前打刃物の老舗メーカーとグルメ
龍泉刃物ファクトリー&ストア
1953年創業の越前打刃物の老舗メーカー。切れ味と高いデザイン性は国内外でも評価が高い。店内では包丁選びの相談はもちろん、握り具合や重さなどを体感しながら試し切りもできる。ショップの隣に工房も併設。不定期のワークショップ(要予約)も行っている。
■10時~17時/不定休/北陸線武生駅からタクシー15分・北陸新幹線越前たけふ駅からタクシー10分/TEL:0778-43-6020
麺房いせや
江戸時代後期から続く老舗のそば店。県内産そば粉を使用した「越前おろしそば」750円のほか、オムライスにカツをのせた「ボルガライス」1050円、昔ながらの「たけふ駅前中華そば」700円と、越前市三大グルメを提供。一度に楽しめるお得な「ひ三(み)つのごちそうセット」1750円も人気。
■11時~14時(夜は予約営業)/木曜休/北陸線武生駅から徒歩10分/TEL:0778-22-1363
文/高崎真規子
写真/宮川 透ほか
タケフナイフビレッジ
9時~17時/年末年始休/北陸線武生駅からバス20分、味真野神社前下車徒歩10分・北陸新幹線越前たけふ駅からタクシー10分/TEL:0778-27-7120
※料金などは掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2024年3月号)
(Web掲載:2024年3月11日)