【紅葉の秘湯】名は体を表す?「紅葉館」へ行こう!
(左)七味温泉紅葉館(中)武田尾温泉紅葉館(右)鹿沢温泉紅葉館
「紅葉館」に泊まって“紅葉”を眺めた
富士の山を望むから富士見館。名瀑の近くにあるから滝見苑。では、温泉旅館で紅葉を愛(め)でるなら……?名は体を表すはずだという発想で「紅葉館」という名前に注目してみると、何とも潔い名称の宿が全国の温泉地に点在している。美しい紅葉に期待しつつ、紅葉館の皆さんに立地や歴史、秋の魅力をうかがった。
七味温泉 紅葉館<長野>
「周辺に広葉樹が多く、色とりどりの紅葉が楽しめることから『紅葉館』と名付けられました」。そう話すのは、1972年に創業した「七味温泉 紅葉館」の代表取締役・北澤貴治さんだ。七味温泉は長野県北東部の松川沿いに八つの温泉が湧く信州高山温泉郷の一つで、渓谷最奥に位置するため、「本館に到着するまでに松川渓谷沿いの紅葉ドライブが堪能できます」。
宿泊客の目当ては露天風呂での紅葉観賞。かけ流しの硫黄泉は気温などによってエメラルドグリーンや乳白色に変わり、ブナやナラ、カエデの紅葉がよく映える。同館の標高は1200メートルだが、全長15キロに及ぶ松川渓谷は標高差が1100メートルあり、紅葉の見頃も長い。八滝展望台や高井橋周辺が見どころだ。
TEL:026-242-2710
住所:高山村牧2974-45
料金:1泊2食1万7750円~
🍁紅葉の見頃:10月中旬~11月上旬
鹿沢温泉 紅葉館<群馬>
群馬と長野の県境にある湯ノ丸山の中腹、標高1500メートルにたたずむのは「鹿沢(かざわ)温泉 紅葉館」。「雪山讃歌」の作詞の舞台となり、スキー客にも人気の一軒宿だが、秋は宿名のとおりカラマツ林の紅葉に包まれる。
「吹き抜けの食堂や新館客室の窓から山あいの風景を眺め、くつろぎの時間をお過ごしください」と話す小林昭貴さんは5代目館主を務めている。創業は明治の初めの1869年。「浴槽の大きさを変えてはいけない」という2代目の教えを守り、敷地内で湧く源泉をかけ流す浴槽は1時間で新鮮な湯に入れ替わるという。「成分が濃く、湯が力強い」とファンも多い。4キロほど離れた新鹿沢温泉との間に湯尻川沿いを歩くコースがあるので、カラマツ林の紅葉散策後に湯浴みしたい。
TEL:0279-98-0421
住所:嬬恋村田代681
料金:1泊2食1万5000円~
🍁紅葉の見頃:10月上旬~中旬
武田尾温泉 紅葉舘 別庭 あざれ<兵庫>
「武田尾温泉 紅葉舘 別庭(べってい)あざれ」は、兵庫県南東部を流れる武庫(むこ)川上流の渓谷沿いに立つ。「大阪市内からJRや車で約40分の距離にありながら、豊かな自然が楽しめます」と支配人の藤野雅海さん。やはり「秋はお客様に最も人気の高い季節」だそうで、モミジやカエデ、サクラの紅葉は11月が見頃。源泉かけ流しの展望風呂や食事処はもちろん、全12室が温泉付きの離れとなっている客室からも渓谷の秋景色が望める。
「JR福知山線廃線敷も紅葉がきれいで、ハイキングコースを歩くのもおすすめです」とのこと。旧国鉄時代の武田尾― 生瀬(まなぜ)駅間の廃線跡にトンネルや橋などの鉄道遺構が残る。武庫川沿いの紅葉に包まれて、2時間ほどの散策を満喫するといい。
TEL:0797-91-0131
住所:宝塚市玉瀬イヅリハ1-47
料金:1泊2食3万6000円~
🍁紅葉の見頃11月上旬~下旬
旅館の売りを名前に込めてアピールした時代と違い、インターネットのある今はさまざまな媒体で魅力を発信できる。情報があふれているからこそ、名前に注目して宿を選ぶのはむしろ新鮮だ。「紅葉館に泊まって紅葉を眺めた」という単純なアクションが、特別な記憶となることもあるだろう。
文/内山沙希子
※料金などは掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2024年10月号)
(Web掲載:2024年12月21日)