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【新そばの里へ】原種を守り育てる努力が結実し「玄そばの最高峰」の声も 常陸秋そば<茨城>

場所
> 常陸太田市、常陸大宮市
【新そばの里へ】原種を守り育てる努力が結実し「玄そばの最高峰」の声も 常陸秋そば<茨城>

「常陸秋そばの郷まもりたい」の原種生産そば畑と関則史さん。9月末には一部が黒い実を付けていた

 

「故郷のそば畑を守りたい」という思い

茨城県は玄そば(※)の収穫量が北海道に次いで全国2位を誇る。中でもよく知られている常陸秋(ひたちあき)そばは、県北部の常陸太田市金砂郷(かなさごう)地区(旧金砂郷村)の在来種を1978年から選抜育成して誕生した品種で、実が大きく粒ぞろいが良く、香り高いのが特徴だ。85年に県の奨励品種に採用され、現在では県内で栽培されるそばのほとんどがこれだ。霜が降りる前に収穫され、早い地区は11月中旬から新そばが出回る。

竜神大吊橋近くで「慈久庵(じきゅうあん)」を営む小川宣夫(のぶお)さんによると、「県北部ではそばといえばけんちんそば」を意味し、根菜類中心のしょうゆ味の汁に入れて食べるのが一般的だった。

奥久慈の観光名所は日本三名瀑の一つに数えられる袋田の滝
常陸太田市の竜神ダムに架かる長さ375メートル、高さ100メートルの竜神大吊橋
「慈久庵」の店主・小川宣夫さんは畑も管理する

金砂郷地区は南北に長く、北は阿武隈(あぶくま)山地が控え、南は平坦地が多い。北部の赤土町の生産者・関則史さんは先祖代々、葉タバコ生産農家だったが、地元農家の多くが葉タバコの後作にそばを栽培する輪作をしていた。葉タバコの残肥を利用していたので品質の良いそばが作れたという。

「選抜されたのは赤土町の在来種なんです」と関さん。現在、山間の傾斜地に30~60アールほどのそば畑が点在し、県の契約農家として常陸秋そばの原種を栽培している。関さんをはじめ地元住民が集まって「常陸秋そばの郷(さと)まもりたい」という名の団体を立ち上げ、耕作放棄地の解消や原種の栽培に取り組んでいる。

自身の実家もそばを作っていた小川さんも「故郷のそば畑を守りたい」という思いから日本一のそば職人を目指し、「守るために(そばの実を)高値で買う」と店を繁盛させた。自ら焼き畑農法で土壌改良したそば畑に出て栽培しながら、後継者育成にも努めている。未来につないでいくのも役目という信念だ。

文/田辺英彦 写真/青谷 慶

 

常陸秋そばの名店

そば道場 久慈川翁

江戸前にこだわるそば切り、せいろのみで「温そば」はなし

一番人気はヤマメの唐揚げが付いた「やまめせいろ」1650円。乾燥するので大盛りはなく追加そば550円
木の温もりを感じる古民家風の店内
店舗は袋田の滝へ向かう国道118号沿いにある

1995年に父親が開業した店舗を2017年から引き継いだ店主は、江戸前の細切りを継承しつつ、そばの商品開発に携わった前職の経験を活かして工夫を重ねている。気候を考慮して一番粉、二番粉、三番粉の配合を調整。喉越しが良く、香りの高い、バランスの取れたそばを追求する。カツオ節と利尻昆布などでとっただしに、角の取れたまろやかなかえしを加えて作るつゆは辛口で、細切りの麺によく絡む。

TEL:0295-57-9333(予約可)
営業:11時〜16時(そばが売り切れ次第終了)/火曜、第3水曜休
交通:常磐線水戸駅から水郡線55分、下小川駅下車徒歩20分/常磐道那珂ICから30キロ
住所:常陸大宮市盛金1112
※ホームページはこちら

 

古式健珍蕎麦 慈久

昔ながらのけんちんそばは「目から鱗」の衝撃とおいしさ

古式けんちんそば1900円。菜種油で炒めた根菜類が入った汁に、そばをひとかたまりずつ入れて食べる
薪ストーブのある洋風な趣の店内
店主自ら設計した建物で、竜神大吊橋へ行く道沿いに立つ

店主は東京・荻窪の老舗「本(ほん)むら庵」で修業して阿佐ヶ谷に「慈久庵(じきゅうあん)」を開業、人気の有名店へと成長させた。2002年に出身地の常陸太田市に移転し、近年は地元で昔から食べられていた「けんちんそば」に力を入れている。せいろとは違う茹(ゆ)で方の細切りそばを、具だくさんの汁に一かたまりで投入。ほろほろと崩れる麺を具材と一緒にかき込む。繊細なそばに野菜の旨みが染みたつゆが絡み、噛むほどに甘みが増す。

TEL:0294-70-6290(予約可)
営業:11時30分〜14時30分(そばが売り切れ次第終了)/火〜木曜休(祝日は営業、翌日休)
交通:常磐線水戸駅から水郡線32分の常陸太田駅でバスに乗り換え40分、竜神大吊橋入口下車徒歩15分/常磐道東海スマートICから30キロ
住所:常陸太田市天下野町21
※ホームページはこちら


※記載内容は掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2024年12月号)
(Web掲載:2025年3月9日)

 


Writer

田辺英彦 さん

東京都大田区出身、埼玉県在住。旅行ガイドブック編集・執筆、出版業界誌執筆などを経てフリーランスに。東北・八幡平の温泉群と、低山ハイク、壊れかけたもの・廃れたものが好き。

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