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【新そばの里へ】越前そば<福井>

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【新そばの里へ】越前そば<福井>

福井在来のそばの風味が際立つ森六のスペシャルせいろ。薬味の粒ウニ、刻んだユズの皮がいいアクセント

 

冷たいおろしそばは、400年続くソウルフード

越前そばは、福井県嶺北(れいほく)地方を中心に食べられている郷土そば。福井県内では在来種のそばが栽培されており、在来種そば粉を使う店も多い。在来種とは、昔からその土地で栽培されてきたそばのこと。小粒で中身が詰まっており、香り高く、風味が豊か。改良品種と異なり、熟す早さが均一ではないが、それが在来種の持つ良さでもあるらしい。

「完熟した実と熟しきっていない若い実が混在することで、香りや味に深みが出ると言われています」と、越前市農政課(取材時)の波多野翼さんが教えてくれた。

「福井在来」のそばは評価が高く、民間団体の日本蕎麦保存会が実施している「おいしいそば産地大賞」で、2020年から3回連続で1位に選出された。

越前そばの食べ方は、いわゆる〝ぶっかけ〟のおろしそばが特徴だ。冷たいそばにだしつゆをかけ、大根おろしと刻みネギ、カツオ節をのせる。甘皮も一緒に製粉したそば粉で打つ、黒っぽい太めの麺が主流だ。ピリッとした大根おろしとつゆが調和し、コシのある麺を噛か むと、そばの風味が口の中に広がる。

1947年、地方行幸で越前市を訪れた昭和天皇もおろしそばを召し上がり、帰京後「あの越前のそば」と、おいしさを懐かしんで振り返ったそうだ。その言葉から、「越前そば」という呼び方が広まったという。

自家製そば粉と県産小麦粉で毎日そばを打つ越前めん処 江戸屋の店主、栗塚明さん
森六4代目の堀正治さん。おろしそば用に使っていた特注のおろし金を見せてくれた

越前そば発祥の地でそば店巡り

その越前おろしそば発祥の地は、現在の越前市と言われている。越前国の国府があった場所で、かつての府中城跡には今は越前市役所が立っている。1601年、府中城主として赴任した徳川氏家臣の本多富正(ほんだとみまさ)が、京都伏見のそば職人を伴い、そば切りを作らせた。その際、大根おろしと一緒に食べるおろしそばを考案したのが始まりと伝わる。現在も市内には、そばを出す店が40店以上あり、地元の人たちが常食する、まさにソウルフード。発祥の地で越前そばを食べてみることにした。


 

越前そばの名店紹介

森六

150年受け継がれる味 在来種を丁寧に自家製粉

明治初期の1871年創業のそば店。「福井在来」だけを使い、殻を磨き、皮をむいた実と甘皮付きの実を、石臼で少量ずつ手間をかけて製粉している。毎日早朝から、おろしそば用とせいろ用の2種の麺を打つ。越前おろしそば(並680円)は、噛み応えのある二八そば。つゆではなく、大根のおろし汁と生醤油(きじょうゆ)で食べる。スペシャルせいろそば(並1280円)は、在来種の風味が存分に味わえる細切りの十割そばだ。

越前おろしそばの大根おろしは、種類の異なる大根をブレンドして味を調整
1991年には当時の天皇・皇后両陛下も召し上がった
変わらぬ味を守り続ける

TEL:0778-42-0216
営業:11時~14時(土・日曜、祝日は~15時。そばが売り切れ次第終了)/月曜、第3火曜(祝日の場合は翌日)休
交通:北陸新幹線越前たけふ駅からタクシー10分/北陸道武生ICから5キロ
住所:越前市粟田部町26-20

 

 

越前めん処 江戸屋

地元で愛されるそば処 そばは殻も挽ひ いて濃い風味

おろしそば(並600円)や和風ボルガライス(1000円)など地元グルメが人気の定食屋。そばは、今庄(いまじょう)在来種の玄そばを殻ごと挽いた自家製そば粉に、福井県産小麦「ふくこむぎ」を合わせた二八そば。カツオ節、干しシイタケ、昆布から低温でじっくりだしを取ったつゆもおいしい。店主考案のオリジナルの塩おろしそば(600円)は、そばの風味がストレートに感じられる。朝8時から、おろしそばが食べられる。

おろしそば。こだわりのカツオ節はその日の分だけを削る
和風の趣ある店内
店は武生中央公園そばにある
具の焼きちくわやみそを使ったソースに出し巻き卵など、オリジナリティーある和風ボルガライス

TEL:0778-24-3248
営業:8時〜9時40分、11時〜17時30分(そばメニューは、そばが売り切れ次第終了)/月曜、第3火曜(祝日の場合は翌日)休
交通:北陸新幹線越前たけふ駅からバス13分、武生駅下車徒歩20分/北陸道武生ICから5キ
住所:越前市高瀬2-6-15


今年3月に延伸開業した北陸新幹線の越前たけふ駅で降りると、駅前には、そば畑が広がっていた。

「そば畑は、福井らしい農業景観です。新幹線の延伸開業を記念して、県外から訪れた方にもこの風景を見てもらおうと、生産者の協力で作りました」と前出の波多野さん。訪れた時はちょうど白く可憐(かれん)花が一面に咲いていた。花が終わると小さな実がなり、新そばの旬となる。

今春開業した越前たけふ駅の前に作付けされた福井在来種のそば畑
可憐な姿とは裏腹に、肥料のような独特の香りがするそばの花
殻が付いた状態が「玄そば」。越前市では、玄そばから自家製粉している店も多い

越前市内では、11月半ばから新そばが提供される。老舗の森六(もりろく)の4代目店主、堀正治さんによると、「打ちたての新そばは薄いきれいな黄緑色で、香りが際立ち、甘味がある」そうで、今から楽しみだ。

そば打ち体験ができる「越前そばの里」や越前和紙の紙漉す きが見学できる「越前和紙の里」など、この地の歴史を知れる場所も訪ねながら、本場の越前そばを食べ歩きたい。

文/出口由紀 写真/宮川 透

 

越前そばなど、この地の歴史を知る

越前そばの里

武生製麺の製麺工場に体験施設が併設している。1打ち2200円でそば打ち体験(要予約)ができるほか、越前おろしそばや福井名物ソースカツ丼などを出す食事処、そば作りの工程や歴史を紹介する資料館もある。そば工場はガラス越しに見学できる。

   
   
   

■9時30分~16時(食事処は10時30分~15時※平日14時以降はおろしそばのみ提供)/年始休/北陸新幹線越前たけふ駅からタクシー5分/北陸道武生ICからすぐ/TEL0778-21-0272

 

越前和紙の里 卯立の工芸館

越前市五箇地区は1500年の歴史を持つ越前和紙の産地。越前和紙の里は、和紙作りの工程や職人による紙漉きを見学できる「卯立(うだつ)の工芸館」のほか、気軽に紙漉
き体験(600円~)ができる「パピルス館」や歴史を学べる「紙の文化博物館」の3館からなる。

  
  
紙の神様を祀(まつ)る岡太(おかもと)神社・大瀧神社。複雑な形の屋根を持つ社殿(国の重要文化財)は必見

■9時30分~16時30分(紙漉き見学は〜16時)/火曜、年末年始休/300円(博物館と共通)/北陸新幹線越前たけふ駅からタクシー10分/北陸道武生ICから5キロ/TEL0778-43-7800


※記載内容は掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2024年12月号)
(Web掲載:2024年11月22日)


Writer

出口由紀 さん

美味しいものには目がないライター。その土地の空気の中で味わう新鮮な特産品や郷土料理は、旅ならではの醍醐味だと思っている。最近感動したのは、生でかじった北海道の白いトウモロコシと夏の日本海の岩ガキ。土地それぞれの言葉を聞くのも好きで、一期一会の出会いと会話を楽しみながら旅をする。

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