【車窓に春風🌸お花見列車】レトロなSL列車に揺られ 桜に包まれる街・家山へ 「大井川鐵道」金谷~家山~奥大井湖上(静岡)

約1キロにわたって続く桜トンネルを蒸気機関車が行く(写真/大井川鐵道)
1931年の開通時に植えた桜が成長し、町の名所になった「家山の桜トンネル」
全国で初めてSLの動態保存を行った大井川鐵道の千頭(せんず)駅開業は1931年。同じ年に県道(現・国道437号)も開通し、千頭駅のある中川根村(現・川根本町)の村長は、下川根村(現・島田市川根町)へ桜の苗木を寄贈。その時住民たちが植えた桜が成長し、町の桜名所「家山の桜トンネル」となった。現在、町全体で約1500本の桜が見られる。
大井川鐵道は2022年の台風被害により、現在、川根温泉笹間渡(ささまど)―千頭駅間で運休を余儀なくされているが、新金谷―家山駅間ではSL「南アルプス号」を運行している。このSL列車に乗って家山へお花見に出かけることにした。
SL列車の起点は新金谷駅。出発まで駅前の商業施設・プラザロコをぶらぶら。駅弁を購入し、ホームへ向かう。SLはすでに出発準備を整えており、「シュッ! シュッ!」という音に気分も高まる。やがて大きな汽笛とともに、大量の蒸気を吐き出しながらゆっくり動き出した。
旧型客車の車窓を流れる桜(写真/大井川鐵道)
神尾駅付近で車窓右手には大井川が現れる。のどかな山里の景色を眺めながら食べる駅弁は格別だ。大和田(おわだ)駅ではホームを彩る桜が美しい。そしていよいよ家山の桜トンネルへ。旧型客車の窓枠を桜が流れていく様子は、まるでタイムトリップしたかのようだ。ほどなく列車は家山駅に到着した。
バスの待ち時間に、桜トンネルのほか天王山公園、緑地公園など家山の桜名所を歩いて巡る。「SLと同じでソメイヨシノは手をかけてやる必要がありますが、先人たちの想(おも)いやこの町の風景を後世に伝えるべく守っていきたい」と、「川根のソメイヨシノを守る会」代表の藁科(わらしな)博さんが教えてくれた。桜トンネル近くのさくら茶屋で名物の蕎麦(そば)いなりを購入し、駅へ戻る。
ソメイヨシノが咲くレトロな家山駅
郷愁を誘う木製のベンチ
家山駅からバスで大井川沿いをくねくねと45分ほど走ると千頭駅に到着。続いて井川線に乗車する。井川線は中部電力が所有していた専用軌道を引き継いだもので、大井川鐵道がトロッコ列車を運行している。
途中、川根両国駅の桜を眺め、日本で唯一のアプト式鉄道区間を通り、雄大な大井川の風景を楽しみながら約1時間、湖の真ん中に突き出た半島上にある奥大井湖上駅に到着した。1990年に、接岨(せっそ)湖の建設に伴って架け替えられた区間にできた駅で、近くの展望所へ上ると、湖に浮かんでいるかのように見える。レトロなSL列車と桜が醸(かも)す懐かしい風景、眼下に見下ろす絶景を思う存分満喫し、帰路に就いた。
文・写真/越 信行
トロッコの車両区がある川根両国駅は穴場の桜スポット(写真/大井川鐵道)
湖の中にぽつんとある奥大井湖上駅は秘境駅としても人気(写真/大井川鐵道)
問い合わせ:大井川鐵道/TEL:0547-45-4112
※記載内容は掲載時のデータです。
(出典:旅行読売2025年4月号)
(Web掲載:2025年4月13日)