【いま、会える昭和】インタビュー「私が昭和歌謡を好きなワケ」 おかゆ(シンガーソングライター)

昭和歌謡は私の教科書。行間に滲む人生の機微を歌いたい
「平成のおんなギター流し」のキャッチフレーズでメジャーデビューを果たした歌手のおかゆさん。歌手になることが夢だった母親に連れられて、子どものころから地元・札幌のスナックで昭和歌謡を聞いて育ったという。17歳のときに母親が急逝、その夢を引き継ぎたいと2014年から流しの活動を始めた。
「東京で、ギター片手に見知らぬスナックを訪ねて歌わせてくださいとお願いして回りました。初日は33軒に断られました。それでもめげずに母への供養と思い、流しを始めてスナックで出会った7842人の方と写真に収まることを目標にしました。7842は母が好きだった『七転び八起き幸せに』という言葉を数字に置き換えたものです」と話す。
全都道府県を行脚し、10年後の24年、母の命日に目標を達成。持ち歌は1000曲を超えた。実はつい最近、母と通った札幌のスナックの元オーナーと再会を果たし、マイクを握る2歳頃の自身の写真を見つけたという。昭和歌謡好きのDNAをしっかり受け継いだおかゆさんにとって、その魅力とはどのようなものだろうか。
「まず昭和という時代に感謝したいと思います。昭和歌謡と出合わなければ今の私はありません。昭和歌謡は人生の教科書です。学校では習わない人間模様や心の機微、愛、優しさなどがちりばめられています。行間にこそストーリーがあり、深く考えさせられる何かがあります。昭和歌謡には男女の恋愛を歌うムード歌謡、アイドル歌手によるアイドル歌謡などがありますが、私が惹(ひ)かれるのは独特のノリがあるグルーヴ歌謡です」と目を輝かせる。
ちあきなおみ、奥村チヨ、欧陽菲菲(オーヤンフィーフィー)らに代表されるグルーヴ歌謡のなかでも、最も衝撃を受けたのが山口洋子作詞・平尾昌晃作曲、五木ひろしの「狼のバラード」。無頼の一匹狼たちを描く時代劇ドラマの主題歌である。歌詞の持つ孤独感やグルーヴ感のある曲調が、駆け出しの頃の自分を励ますBGMであり、今も曲作りの原点だと話す。
アナログレコードに宿る時代を留める記憶のかけら
おかゆさんは、ライブの際に“歌で旅する”と題して、北から南までのご当地を歌った曲を披露することがあるという。例えばこうだ。
石原裕次郎「北の旅人」、石川さゆり「津軽海峡冬景色」、さとう宗幸「青葉城恋歌」、中原理恵「東京ららばい」、五木ひろし「よこはま・たそがれ」、美川憲一「柳ヶ瀬ブルース」、藤圭子「京都から博多まで」、三沢あけみ・和田弘とマヒナスターズ「島のブルース」。昭和歌謡だからこその旅心を誘う名曲の数々、日本各地の情景が目の前に広がるようだ。
そこで、おかゆさんに旅を感じる昭和歌謡5曲を選んでもらった。 「ご当地ソングにするかどうか、とても悩みましたが、あえて“心の旅立ち”というテーマでセレクトしました。最初の曲はちあきなおみさんの『夜間飛行』です。私が海外への憧れ、特にフランスに目覚めたきっかけの曲で、とてもおしゃれでフランスのエスプリがきいています」
さらに電車で信濃路へ旅立つ「あずさ2号」(狩人)、心の傷と別れを圧倒的な言葉の力で表現する「わかれうた」(中島みゆき)、そのものずばり、汽車で街を離れる「心の旅」(チューリップ)、締めくくりは、傷ついた心を癒やしにバスで最果ての地を巡る「岬めぐり」(山本コウタローとウィークエンド)。昭和という時代に寄り添う懐かしい曲に、耳馴染(なじ)みのある方も多いのではないだろうか。
ところでおかゆさんは、都内のバーや商業施設などで「DJ OKAYU」として昭和歌謡のレコードをプレイする活動も行い、その魅力を広めている。そんな彼女の手元には、中古レコード店で買い求めたアナログレコードのほかに、ファンから託されたレコードも多く集まる。なかには当時の新聞記事や記念の品がジャケットに挟みこまれていることも多いとか。
ギターの音にのせて歌い上げるおかゆさんの昭和歌謡には、そんな名もなき人々の記憶のかけらも込められている。
聞き手/関屋淳子
おかゆが選ぶ!旅を感じる昭和歌謡5選
夜間飛行 ◉ちあきなおみ
1973(昭和48)年/恋に破れ、夜便の飛行機で異国へ旅立つ、二度と帰らないと歌う女性の切ない心情。曲の間奏にフランス語のCAのアナウンスが入り、自分でカバーする時は、この部分をアレンジする。
あずさ2号 ◉狩人
1977(昭和52)年/都会での暮らしを捨て、新しい恋人と特急あずさに乗って信州へ向かうヒロインの複雑な心境を歌っている。サビの部分の歌詞と曲の疾走感が印象的な、「ザ・昭和歌謡」の代表格。
わかれうた ◉中島みゆき
1977(昭和52)年/中島みゆきの代表曲のひとつ。人生の出会いや別れに感情が渦巻く。カップリング曲の「ホームにて」は、街に別れを告げて旅立つ歌。ふるさと行きの乗車券という言葉がしみる。
心の旅 ◉チューリップ
1973(昭和48)年/日常を歌い、共感や親近感があるフォークソングの代表曲。明日の今頃は僕は汽車の中、愛に終わりがあって心の旅がはじまるという、まさに心の旅立ちを歌った曲。
岬めぐり ◉山本コウタローとウィークエンド
1974(昭和49)年/場所を限定せずに、岬めぐりのバスとしているところに想像が広がる。歌詞は悲しいがノリの良い曲なので、ライブの最後に演奏すると大合唱になり、盛り上がる。
おかゆ
1991(平成3)年生まれ、北海道札幌市出身。歌手、シンガーソングライター。2014年から「流し」の活動を始め、日本全国を行脚。19年に47都道府県を制覇し、同年、シングル「ヨコハマ・ヘンリー」でビクターからメジャーデビュー。23年、シングル曲「渋谷のマリア」を発売。発売週にオリコン演歌・歌謡曲ランキングで1位を獲得。BSテレビ東京「徳光和夫の名曲にっぽん」レギュラー出演、TBSラジオ「にゅーとぴ♪」メインナビゲーター。よみうりカルチャー昭和歌謡講師や昭和歌謡DJなど幅広く活躍している。