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【いま、会える昭和】レトロな喫茶店、バーに昭和の残り香 新宿さんぽ<東京>(1)

場所
> 新宿区
【いま、会える昭和】レトロな喫茶店、バーに昭和の残り香 新宿さんぽ<東京>(1)

新宿らんぶるの地階。擦れた背もたれに座った人の数だけ思い出が宿る。BGMは昔も今もクラシック

東京へ来たなら新宿へ行け

昭和の面影を探そうと新宿に向かった日は、偶然にも駅東口に立つ新宿アルタの閉館日だった。新宿アルタといえば、バラエティー番組「笑っていいとも!」だ。1982(昭和57)年に始まり、スタジオアルタから茶の間へ、笑いを届け続けた。7年後に昭和が終わるとは誰が想像していただろうか。

新宿アルタ閉館を目の当たりにし、昭和が遠くなったようで寂しくなった。学生時代、新宿で待ち合わせといえば「アルタ前」だった。ここで会えなければその日の予定はご破算。あの頃の「待ち合わせ」は、とても重要な行為だった。早めに着いた時は、よく紀伊國屋書店へ行った。当時のままの9階建て大型書店を見上げると、記憶がよみがえる。あらゆるジャンルの本がそろい時間を潰すには格好の場所だった。

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新宿アルタ閉館日には別れを惜しむ人々が集まっていた

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側壁の打ち込みタイルは竣工当時のもの。リニューアル時にはその打ち込みタイルができるだけ見えるように工夫された

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随所にスタイリッシュな陳列棚がある

「待ち合わせ」で思い起こされるのがもう一つ、喫茶店だ。喫茶店なら、相手が多少遅れて来ようが退屈しなかった。記憶をたどり、新宿三丁目交差点に近い古い名曲喫茶、新宿らんぶるを訪ねると、一気に昭和へ引き戻された。地階に広がる客席200人以上の空間、1950(昭和25)年の創業時から布を張り替えて使っているソファ、小さめのテーブル、巨大なシャンデリア、隅々に置かれた観葉植物、ピンク電話、そのどれもが学生時代に見たままだ。

コーヒー1杯で長時間居座ったこともあった。お金はないけれど時間と好奇心だけはあったのが、私の昭和だ。外光が一切入らない店内にいると、雨が降ってきても日が暮れても気付かない。時が止まったような空間に、今も昭和があった。

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1階にも席があるが、ほとんどの客が地下へ向かう。「らんぶる」とはフランス語で「琥珀(こはく)色」を意味する

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(左)卵とツナのサンドセットはサラダも付いてボリュームたっぷり。コーヒーまたは紅茶が付いて1500円(右)ケーキは7種ほどありセット1400円

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新宿三丁目交差点に立つ伊勢丹新宿店。1933(昭和8)年に竣工した建物はアールデコ調を取り入れ、当時の東京では斬新な造りだった

「東京へ来たなら新宿へ行け」と言う先輩に連れられ酒場で映画や演劇、小説、政治を語る会話に耳を傾け、〝文化〟をかじった気分になった。地方都市では得られないさまざまな〝情報〟があふれ、渦巻く〝欲望〟にとまどった。それこそ今も変わらない新宿なのだ。

文/渡辺貴由 写真/齋藤雄輝

【いま、会える昭和】喫茶店、バーに昭和の残り香 新宿さんぽ<東京>(2)へ続く(9/8公開)

紀伊國屋書店 新宿本店

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紀伊國屋ホール入り口

創業は1927(昭和2)年。1964(昭和39)年に、建築家・前川國男の設計による現在のビルが竣工。2023年にリニューアルした。1階は正面から裏側へ通り抜けられる造りで、商店が並ぶ小路(こうじ)をイメージ。4階の紀伊國屋ホールでは寄席や演劇などの公演があり、幅広く文化を発信している。
■10時~21時/無休/山手線ほか新宿駅東口から徒歩3分/新宿区新宿3-17-7/TEL:03-3354-0131

新宿らんぶる

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(右)1955(昭和30)年頃の新宿らんぶる(左)昔懐かしいピンク電話

名曲・珈琲(コーヒー)を謳(うた)う純喫茶。1974(昭和49)年築の建物の地階は、入り口からは想像できないほど広い。2層構造で、2人席、4人席、ロングソファのコーナー席など人数に応じて席を選べる。創業当時から使っているソファの幅は少し狭めでテーブルも小さく、古風な設えに昭和を感じる。
■9時30分~18時/年末年始休/山手線ほか新宿駅東口から徒歩5分、または地下鉄丸ノ内線ほか新宿三丁目駅A1出口から徒歩2分/新宿区新宿3-31-3/TEL:03-3352-3361


※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:旅行読売2025年5月号)
(Web掲載:2025年9月7日)


Writer

渡辺貴由 さん

栃木県栃木市生まれ。旅行情報誌制作に30年近く携わり、全国各地を取材。プライベートではスケジュールに従った「旅行」より、行き当たりばったりの「旅」が好き。温泉が好きだが、硫黄泉が苦手なのが玉に瑕(きず)。自宅では愛犬チワワに癒やされる日々。

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