【ひとり、秘湯へ】とろとろの湯を巡り、古き良き湯治場の風情を味わう 大沢温泉 湯治屋(1)
昔ながらの男女混浴の大露天風呂「大沢の湯」
約1200年前の開湯といわれる豊沢川沿いの一軒宿
大沢温泉は花巻市の西部、豊沢川沿いの峡谷に立つ一軒宿だ。約1200年前の開湯といわれ、宮沢賢治も父とともに訪れたという。敷地内に入ると、右手に近代和風旅館の「山水閣」、坂道を下ると自炊場もある築200年余りの湯治宿「湯治屋」、川の向こう岸に茅葺(かやぶ)きの別館「菊水舘」(現在は展示スペースとして使用)と、3棟からなる。
昔ながらの湯治の風情を味わってみたくて、湯治屋に予約を入れた。案内された部屋は本館2階の角部屋。どの部屋も廊下との仕切りは障子1枚で、どこからかなごやかな笑い声が漏れ聞こえてくる。すっかり気分がやわらぎ、畳の部屋に大の字に寝ころんだ。

湯治屋の玄関。木造の建物から漏れる明かりが幻想的

玄関を入るとすぐ帳場がある

湯治屋の客室。各部屋にテレビ、冷蔵庫、お茶セットを備える
温泉は男女混浴の「大沢の湯」をはじめ、趣の異なる四つの湯を巡れる。迷路のような館内を歩き、まずは女性専用の露天風呂「かわべの湯」へ。こぢんまりした湯船の縁にもたれ、渓流をのんびり眺める。続いて渡り廊下を通り、山水閣の「豊沢の湯」へも足を延ばす。大きな岩風呂で、目の前の峡谷に青々とした木々が茂り、壮大な絵画のよう。とろとろした湯が体になじみ、瀬音が心地よく響く。露天風呂はすべて川沿いで、紅葉の季節は周囲の木々が赤や黄色に染まるという。

山水閣にある「豊沢の湯」。春から秋はガラス戸を開け半露天となる
帰りに共同炊事場をのぞいてみた。手動で火をつけるガスコンロがなんとも懐かしい。自炊の道具はひと通りそろっているが、煮炊きしている人は見当たらなかった。聞けば、農閑期などに1~2週間滞在して自炊する常連の湯治客が多かったのは20~30年前のこと。今は長期滞在も減り、館内のお食事処「やはぎ」を利用する人も多い。大沢地区で採れた十割そば、岩手県産のいわい鶏の石焼きステーキなど、当地ならではのメニューも豊富で、定食などが付く宿泊プランもあるそうだ。

共同炊事場。調理器具、食器は無料で貸し出し、使用後は洗って元の場所に戻す

コイン式のガスコンロ。10円で約7~8分ガスが出る

お食事処「やはぎ」。一品料理や定食、アルコール類も豊富。朝食は予約制で、夜は21時まで

郷土料理の「ひっつみ定食」1200円
朝食時は炊き出しコーナーでご飯(0.5合100円)とみそ汁(150円)も予約できる。売店では漬物や生卵、納豆なども販売。地元の「ご飯にのっけ漬」を見つけ、半熟に茹(ゆ)でた卵と納豆の3色丼にしたら、これがけっこうイケる。共同炊事場をうまく利用すれば、快適なプチ湯治が楽しめるだろう。

売店は豊富な品ぞろえ。土産品、食料品や調味料、カップ麺、アルコールも販売
文/高崎真規子
【ひとり、秘湯へ】とろとろの湯を巡り、古き良き湯治場の風情を味わう 大沢温泉 湯治屋(2)へ続く(1/1公開)
大沢温泉 湯治屋
TEL:0198-25-2021
住所:花巻市湯口大沢181
ひとり泊データ
条件:通年可
客室:トイレなし8畳和室など(全57室)
料金(税込み)
素泊まり 平日3370円~※1/休前日 要問い合わせ
1泊朝食 平日5170円~※2/休前日 なし
1泊夕食 平日6520円~※3/休前日 なし
※1 寝具等貸出料金は1泊につき、掛布団220円、敷布団220円、シーツ100円、枕20円、浴衣220円など。積み上げ算方式で計算。持ち込み可
※2 朝食付きプラン(布団一式を含む)
※3 夕食付きプラン(布団一式を含む)
※2人1室利用の場合は素泊まり3070円~
泉質:アルカリ単純温泉
日帰り入浴:7時~20時30分/無休/700円(当日に清掃が入る場合あり)
交通:東北新幹線新花巻駅から花巻南温泉郷無料送迎シャトルバス45分(4日前までに要予約)/東北道花巻南ICから11キロ
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:旅行読売2025年11月号)
(Web掲載:2025年12月31日)


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