【ひとり、秘湯へ】森を歩いてたどり着く“隠し湯”を巡る 銀婚湯~上の湯温泉~(1)
「トチニの湯」の丸太風呂。そばで湧く源泉を単独で引いていて、一番濃度が濃い
ワイルドな露天風呂で、湯とともに自然と一体になる
「道南に行くなら外せない宿」。多くの人からそんな評判を耳にするたび、いつか訪れたいと思っていた。
時間の制約がないひとり旅なので、北海道新幹線と函館線を乗り継ぎ、海と原野を車窓に眺めながら、のんびり陸路で向かう。最寄りの落部(おとしべ)駅は、1日6本の各駅停車しか止まらない静かな無人駅。宿までは送迎車で15分。落部川を上流にたどるように走ると、まぶしい緑に包まれた宿の建物が姿を現した。

北海道では珍しい純和風の木造建築
上の湯温泉は、古くは先住民族アイヌが狩猟の合間につかった秘湯だ。大正時代に銀婚湯の初代が開拓に入り、新しく源泉が大量に湧出したことから宿屋を創業。宿名は、源泉が出た日である1925(大正14)年5月10日が大正天皇の銀婚式の日だったことに由来する。
そこから少しずつ敷地を大きくしていき、今では広さ約9万坪。そこに「隠し湯」と呼ばれる宿泊者専用の五つの貸切風呂が点在していて、湯巡りするのがここでの楽しみになっている。
「20年ほど前に父が自分で入るために風呂を造ったのが始まりなんです。距離があるので、常連さんだけに入ってもらっていたら、これは他の客にも開放すべきだと言われて。それが今のトチニの湯です」と、4代目の川口洋平さんが教えてくれた。先代の川口忠勝さんは、それから少しずつ風呂の数を増やしていき、道中も楽しめるようにとカツラやカエデなどの木々を植えた。
五つの隠し湯の中でも一番人気の「トチニの湯」は、フロントから外に出て、苔(こけ)むした庭園の踏み石をたどって歩き、落部川に架かるつり橋を渡って、さらに白樺の並木を抜けた先にあり、たどり着くまでに10分かかる。森の奥に見えてきた囲いは、まるで秘密基地の入り口のようだ。杉の丸太をくり抜いた湯船にどっぷりつかると、目の前には落部川の清流が。思わず「ふ~」と長い息が漏れた。これほど自然と一体になれる湯がほかにあるだろうか。

落部川に架かる宿専用のつり橋。この先に「もみじの湯」「どんぐりの湯」「トチニの湯」の三つがある

森の奥にやっと出てくる「トチニの湯」の入り口

「トチニの湯」は湯船が二つあり、四角い湯船のほうが川に近い

カツラ並木の先にひっそりある「かつらの湯」は、ツリーハウスのような高所に湯船がある

巨石を自分たちで掘って造ったという湯船からの眺めも新鮮
敷地内から自噴する源泉もまた個性的だ。薄い茶褐色の湯は、「油臭」と表現される石油に似た匂いがして、ツルツルとした肌触り。風呂ごとに注がれる源泉が少しずつ異なっているので、湯触りや濃度の違いを比べてみるのもいい。
文・写真/野水綾乃
【ひとり、秘湯へ】森を歩いてたどり着く“隠し湯”を巡る 銀婚湯~上の湯温泉~(2)へ続く(12/7公開)

銀婚湯
TEL:0137-67-3111
住所:八雲町上ノ湯199
ひとり泊データ
条件:通年可
客室:トイレなし8畳和室、トイレあり10畳和室など(全21室)
食事:夕・朝食=食事処
料金(税込み)
素泊まり なし
1泊朝食 平日・休前日1万1040円~
1泊2食 平日・休前日1万4670円~
※2025年12月1日から1泊朝食1万3460円~、1泊2食1万7090円~に変更
※2人1室利用の場合は1泊2食1万3350円~(同12月1日から1万5550円~に変更)
泉質:ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉など
日帰り入浴:12時~16時/月曜休(祝日の場合は営業)/800円
交通:函館線落部駅から送迎15分(要予約)/道央道落部ICから14キロ
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※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:旅行読売2025年11月号)
(Web掲載:2025年12月6日)


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