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【ひとり、秘湯へ】コラム 温泉パワーを感じる秘湯3選(温泉研究家・岩本 薫)

場所
  • 国内
  • > 北陸・中部・信越
  • > 長野県

> 小谷村、霧島市、那須町
【ひとり、秘湯へ】コラム 温泉パワーを感じる秘湯3選(温泉研究家・岩本 薫)

大湯元 山田旅館 外湯 展望風呂

「秘湯の定義をワタクシ的に……」

秘湯というと、辺鄙(へんぴ)なところにポツンとある一軒家の穴場的な温泉宿といったところが一般的な認識だと思うけれども、ワタクシ的な秘湯の定義を付け加えると、まずはひなびていること。いくら山間にポツンでもピッカピカの温泉なんかじゃあ、シラけてしまうわけですよ。ひなびているからこそのちょっとしたタイムスリップ感があることがポイント。なんか迷い込んだような感じがたまらないわけで、やっぱ秘湯はミステリアスじゃないとねぇ。

そして湯。フツーの湯だったら秘湯じゃない。その辺鄙なところにわざわざ行きたくなるような湯があること。むしろワタクシ的には辺鄙なところというのは、ソコソコ辺鄙であればOKかもしれない。

そんなわけで三つ、ワタクシ的秘湯の中でもわかりやすい湯をあげてみました。

一つ目は長野県の小谷(おたり)温泉「大湯元 山田旅館」。ここは佇(たたず)まいがめっちゃノスタルジック。なんてったって湯治の湯宿として創業したのは江戸時代。その時代に建てられた本館も残っていて、そのほかを含む6棟が登録有形文化財に登録されているのだ。山を登っていったらホントにタイムスリップしちゃったのかしらって思わせる佇まいがたまらない。そして湯も濃厚にしてパワフル。ツルスベ感のある浴感。湯につかってすぐにジワジワとくる素晴らしい湯。そんな湯が打たせ湯でドバドバと絶えず投入されている。ここは「武田信玄の隠し湯」だったそうで、信玄軍の兵士たちも、この湯でさぞかしパワーをいただいたことだろうと思わずにはいられないのだ。

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ノスタルジックな建築をご堪能あれ。温泉はドバドバ打たせ湯の内湯と、景色が楽しめる展望風呂がある

大湯元 山田旅館 (小谷温泉・長野)
住所:小谷村中土18836
TEL:0261-85-1221
ひとり泊データ
条件:空いていれば可(2室)※冬季は天候を見ながら営業
客室:トイレなし6畳和室、トイレあり8畳和室など(全35室)
食事:夕・朝食=食事処 料金:素泊まり・1泊朝食なし、1泊2食1万7700円~
泉質:ナトリウム―炭酸水素塩泉
日帰り入浴:10時~15時/月曜休/700円
交通:大糸線南小谷駅からバス35分、小谷温泉山田旅館前下車すぐ/北陸道糸魚川ICから40キロ、長野道安曇野ICから75キロ

二つ目は鹿児島県の新湯(しんゆ)温泉「国民宿舎 霧島新燃荘(しんもえそう)」。ここは、さすが火山の国って言われるだけある、火山の化身のようなパワフルな酸性湯に出合える宿だ。濃厚なタマゴ臭とそれにぴったりな熱めの適温でスベキシ感のある白濁湯(光の加減によってミルキーブルーにも見える美しい湯)で、これぞ火山性温泉と納得できる浴感。入浴時間が「30分以内」と制限されている理由も、つかってみればわかってくる。宿の外観はリニューアルされてひなび感はなくなったけれども、木造の湯小屋は昔のままで、ひなびた温泉好きのココロをキュンとさせる。ああ、温泉って大地がパワーを与えてくれているんだなぁと体感できる秘湯なのだ。

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思わずうわ〜っと声をあげたくなるような見事な露天風呂。晴れの日の夜は、この美しくパワフルな湯につかりながら満天の星が眺められるのだ

国民宿舎 霧島新燃荘 (新湯温泉・鹿児島)
住所:霧島市牧園町高千穂3968
TEL:0995-78-2255
ひとり泊データ
条件:空いていれば可(1室)
客室:トイレあり6畳和室(全6室)
食事:夕・朝食=食事処
料金:素泊まり・1泊朝食なし、1泊2食1万7200円~
泉質:単純硫黄温泉
日帰り入浴:8時~17時/火曜休(連休あり)/600円
交通:日豊線霧島神宮駅からバス25分、丸尾下車タクシー10分/九州道えびのICから26キロ、鹿児島空港から29キロ

三つ目は栃木県の那須湯本温泉郷「北温泉旅館」。ここも江戸時代に創業した湯治の湯宿で、江戸時代に建てられた建物に明治と昭和に建てられた建物が〝つぎはぎ〟されている、いわゆるつぎはぎ建築。着いたらまず探検したくなるようなワクワクする造りの建物だ。

で、ここの湯はパワフルというのとはちょっと違って、鮮度がめっちゃ素晴らしい。それというのも源泉投入量がドバドバで中でも名物「天狗(てんぐ)の湯」がスゴい。この湯につかっていると、ああ、やっぱり温泉の湯は「泉質と鮮度の両輪」でキマるんだなぁということがよ〜くわかる。

それと浴室のインパクトも圧巻だ。なんでも奈良時代に大天狗によって発見されたっていう伝説を誇る「天狗の湯」の浴室には特大、大、中の三つのサイズの天狗の面がドドンドンッと飾られている。巨大な天狗に見下ろされながら鮮度抜群のドバドバ湯につかる体験は忘れられないものになるはず。ココもまたエンタメ感満載なミステリアスな秘湯なのですねぇ。

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どーです? このインパクト! 天狗が発見した湯という伝説をこんなふうに演出した温泉があるなんて外観からは想像できない

北温泉旅館 (北温泉・栃木)
住所:那須町湯本151
TEL:0287-76-2008
ひとり泊データ
条件:繁忙期を除く(1月~3月は、火・水曜休)
客室:トイレなし6畳和室(全30室)
食事:夕・朝食=なし
料金:素泊まり6900円~、1泊朝食・1泊2食なし
泉質:単純温泉
日帰り入浴:8時30分~16時30分/無休/700円
交通:東北新幹線黒磯駅からバス55分、大丸温泉で那須塩原駅西口行きバスに乗り換え2分、北湯入口下車徒歩25分/東北道那須IC
から19キロ

文/岩本 薫


プロフィール(2026年1月号から・20251128).jpg

プロフィール
岩本薫(いわもとかおる)

1963年東京生まれ。温泉研究家、作家、エッセイスト。温泉研究家といってもひなびた温泉にしか興味がない偏愛志向。主な著書に『もう、ひなびた温泉しか愛せない』『つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世界』『ヘンな名湯』『もっとヘンな名湯』(以上、みらいパブリッシング)『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)等。メディアにも多数出演。ひなびた温泉マニアのグループ「ひなびた温泉研究所」のショチョーでもある。

※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:旅行読売2025年11月号)
(Web掲載:2025年12月25日

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