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川底から湧き出る源泉に身を沈める

場所
> 中之条町
見頃
11月
川底から湧き出る源泉に身を沈める

尻に熱いから尻焼温泉

尻焼温泉の名前の由来は、川の底から湧き出す湯が熱くお尻が焼けるようだから、というもの。

今も長笹沢(ながささざわ)川から源泉が湧き出しており、川上と川下をせき止めて、川がそのまま大露天風呂になっている。秋になると周囲の山々が色付いて、絶好の紅葉名所となる。

吾妻(あがつま)線の長野原草津口駅から35分ほど。バスは白砂川に沿った国道405号をゆっくり進む。白砂渓谷ラインと呼ばれるこの道沿いには手付かずの広葉樹林が続く。温泉までの車窓の紅葉もさぞ見事だろう。


山々に囲まれるように渓流沿いに立つ
山々に囲まれるように渓流沿いに立つ

大自然の静けさに迎えられ

尻焼温泉は、花敷(はなしき)温泉バス停から800㍍ほど奥に入った所。目当ての星ヶ岡山荘は、山の一角を切り開いたような一軒宿である。

「ここにあるのは大自然と静けさだけ、他には何もないんです。ありのままの自然に包まれて、その優しさを感じていただけたらと思います」と女将・大谷郁美さんは話す。


女将の大谷郁美さん
女将の大谷郁美さん

せせらぎだけが響く森の中の露天

露天風呂で手足を伸ばして周囲を見回しながら、女将さんの言葉の意味をしみじみ実感した。

風呂は廊下の突き当たり、建物の端っこにある。内風呂から外に出ると、緑の木々にすっぽりと包まれた露天風呂。湯につかり、出て渓流を見下ろすと、誰もいない山の中にたった一人でくつろいでいるような錯覚に襲われた。静かな森に、せせらぎの音だけが心地良く響く。

前庭の見える風通しのいいロビー、渓流と山々を絵に切り取って額縁に入れたような客室の窓など、宿の造りが何気なく自然の良さを演出している。

紅葉の見頃は10月中旬~11月上旬。秋になってナナカマドやウルシや……周囲の木々が赤や黄色に染まるさまを想像してうっとりする。晴れた日は息をのむほどきれいな満天の星に包まれる。


客室からは渓流と山々が見える
客室からは渓流と山々が見える

旬の地元の食材が、甘い!うまい!

気分がゆったりして、内湯と露天を行ったり来たりしていたら、あっという間に1時間が過ぎていた。が、長笹沢川の底から湧く尻焼温泉を源泉とする湯は柔らかく、何度入っても湯疲れしない。

女将さんは何もないと言ったが、旬の地のものを使ったおいしい食事があるではないか。トウモロコシやズッキーニなどの高原野菜も上州牛もコンニャクも、うまみが濃厚で味わい深いのである。


夕食には六合地区の高原野菜、アユ、上州牛など地元の食材を厳選
夕食には六合地区の高原野菜、アユ、上州牛など地元の食材を厳選

“尻焼”の由来、河原の大露天風呂へ

翌朝、散歩に出ると河原の大露天風呂から湯煙が出ていた。宿までは歩いて3分ほど。戻って水着に着替え、引き返す。滑りやすいからと宿でサンダルを貸してくれた。

露天風呂といっても川の中なので、いつでも無料で入れる。混浴で水着着用もOKだ。小さな泡が出ている所を探し、お尻を移動させるとちょうどいい温かさ。あちちちと焼けるほどではないが、なかなかできない貴重な体験だった。

ただし、雨などで水量が多いと、冷たくて入れない日もある。


野反湖には遊歩道も整備されている
野反湖には遊歩道も整備されている

珍しいコケと紅葉の共演

尻焼温泉のある六合(くに)地区は長野県に隣接する山深い里で、紅葉の名所も多い。標高2000㍍の山々に囲まれたダム湖、野反(のぞり)湖の紅葉の見頃は10月初め。ダケカンバやシラカバなど黄色の中にナナカマドの赤が映える。

「紅葉は1か月かけて徐々に山を下りてくるので、標高800㍍の尻焼温泉で見頃の時期は、すでに野反湖の紅葉は終わっています。でも、ダケカンバは散っても幹が美しいので、天気のいい日は野反湖ブルーの湖面と木々のコントラストがきれいです」と中之条町観光協会の原沢香司さん。

チャツボミゴケ公園の紅葉も見逃せない。チャツボミゴケは酸性の鉱泉が流れる地域にしか生息しない、全国でも珍しいコケ。その鮮やかな緑一面の川面が紅葉と共演する姿は幻想的だ。  

文/高崎真規子


チャツボミゴケ公園のチャツボミゴケの群生地(写真/山本修)
チャツボミゴケ公園のチャツボミゴケの群生地(写真/山本修)

<施設データ>

星ヶ岡山荘

☎0279955121

http://hoshigaokasanso.com/



(出典 「旅行読売」2019年10月号)

(ウェブ掲載 2019年10月1日)

Writer

高崎真規子 さん

昭和の東京生まれ。80年代後半からフリーライターに。2015年「旅行読売」の編集部に参加。ひとり旅が好きで、旅先では必ずその街の繁華街をそぞろ歩き、風通しのいい店を物色。地の肴で地の酒を飲むのが至福のとき。本誌連載では、大宅賞作家橋本克彦が歌の舞台を訪ねる「あの歌この街」、100万部を超える人気シリーズ『本所おけら長屋』の著者が東京の街を歩く「畠山健二の東京回顧録」を担当。著書に『少女たちはなぜHを急ぐのか』『少女たちの性はなぜ空虚になったか』など。