【旅する喫茶店】珈琲まるも(松本)
テーブルやイス、棚などすべて松本民芸家具で統一されている
松本民芸家具に囲まれる
旅先で「この街に住みたい」と思うことは、わりとよくある。頭の中で順番を付けて遊ぶのだけれど、何度考えても松本はずっと1位だ。
なまこ壁の土蔵が残り、民芸品などの店が並ぶ中町通りの北側、女鳥羽(めとば)川に面して「まるも」は立つ。幕末の1868年に旅館として創業。明治時代の1888年の松本大火の後に、火事に強い白壁の蔵造りになった。喫茶店は戦後の1956年に現在のオーナー、三浦史博さんの祖父が、旅館の一部を改装して開業した。
店内の温かい雰囲気は、松本民芸家具によるところが大きい。ミズメやケヤキなど国産の木材で作られた洋家具で、長く使うにつれ味わいを増す。家具メーカー、松本民芸家具の創立者、池田三四郎が店の設計をし、テーブルやイスはすべてデザインが異なる。お気に入りの席が空いていないと帰ってしまう常連客もいるという。「長年使うと、やわらかい印象になるのが松本民芸家具の魅力です」と三浦さん。
酸味と苦みのバランスがいい、ブレンド珈琲を飲む。「飲料としてのコーヒーじゃなく、音楽や雰囲気を含め嗜好品としてのコーヒを提供したい」と三浦さんは言う。
クラシック音楽の流れる空間に身を置き、コーヒーをひと口。この居心地のよさもまた、私が松本に住みたい理由の一つになっているのだ。
文/たびよみ編集部 写真/矢巻美穂
住所:長野県松本市中央3-3-10
交通:篠ノ井線・大糸線松本駅から徒歩15分、または松本駅から周遊バス東コース4 分、はかり資料館下車すぐ
喫煙:不可
TEL0263-32-0115
(出典 「旅行読売」2014年6月号)
(ウェブ掲載 2020年4月15日)