【旅する喫茶店】石打 邪宗門(南魚沼)
新潟県十日町市の茅葺き民家を移築した。外観とのギャップがいい
マジシャン創業者の精神受け継ぐ
上越線石打駅を降りると、吹きつける冷たい風にじっとしていられず、思わず足踏みをしていた。暖を取ろうと向かったのは「石打 邪宗門(じゃしゅうもん)」。
邪宗門というと、喫茶店好きならピンとくるかもしれない。東京に2店(世田谷、荻窪)、小田原(神奈川※閉店)、下田(静岡)、高岡(富山)にも同名の店がある。ただし、チェーン店ではない。ではなぜ?
マスターの林利貞さんは、「農業もやっているから、細かい手作業が苦手になってきてねえ」と言いながら、ゴツゴツした指で器用にコインを出したり消したりしている。手品、そう一人のマジシャンから邪宗門は始まった。
東京・国立(くにたち)の邪宗門を開いたのが創業者の名和孝年さん。2008年に亡くなり、店も今はない。元船乗りでマジシャンという異色の経歴の持ち主だった。「風変わりだったけど、おしゃれで粋で魅力的な男だったな。髪を真っ赤に染めて〝国立のピエロ〞と呼ばれていたんだよ」と、林さんは懐かしそうに笑う。名和さんに憧れた常連客がコーヒーとマジックを学び、各地で店を出した。「モカベースで焙煎は浅く」。コーヒーの味だけはどの店も同じだ。
すっかり体が温まり店を出ると、景色は一変。大きなぼたん雪が舞い、あたり一面雪景色だ。魔法にかけられたような気分で駅に急いだ。
文/たびよみ編集部 写真/三川ゆき江
住所:新潟県南魚沼市関928-3
交通:上越線石打駅から徒歩15分
喫煙:不可
TEL025-783-3806
(出典 「旅行読売」2015年2月号)
(ウェブ掲載 2020年4月15日)